ジャック誕生日おめでとう!




あのあと自称アイドル師匠の部屋で私はずっとベルトとにらめっこしていた。自称アイドル師匠にあーだこーだ言われながらも、どんな模様にするか、どんなチャームポイントを入れようかと四苦八苦して、やっと完成間近となっていた。
ほとんど完成したであろうベルトを見つめて、私は腕を組み頭を捻る。なんかどこか足りない。



「やっと完成したな」
「………」
「?なんだよ、まだ不満なのか?」
「え、あ、いえ…」



なんだろう。何か足りない気がする。私的に力作だし、ジャックもきっと喜んでくれるはずだと思うんだけど、なんかどこかが足りない。何が足りないんだろう。



「自称アイドル師匠…なんか足りない気がしませんか?」
「なんか?なんかって…普通に使えるぜ、これ」
「いやそうじゃなくて…」



ベルト全体を見つめる私に、自称アイドル師匠は首を傾げた。私はふと、自分の制服に視線を移す。あっ、これだ!



「これです、これ!」
「は?…バッヂ?」
「はい、私の大好きなバッヂです!」



このバッヂは私が一番気に入ってるバッヂで、いつの日かジャックにこれが欲しいと言われたときがあった。あ、エースにも欲しいって言われたこともあったっけ。
このバッヂは限定品で世界で数個しかないと言われていて、私はそれまでの全財産をこのバッヂのために使い込んだ。このバッヂがマニアックだったお陰で手に入れることができた。ずっと制服のスカーフにつけていたけど、これをつければきっと完璧だ。



「そうと決まれば早く取ってベルトにつけなきゃ」
「そのバッヂそんなすんのにあげちゃっていいのか?」
「いいんです、これがあれば完璧なんですから!」



キラリと光る、小さなチョコボのバッヂに自称アイドル師匠は興味無さげにふーん、と呟く。私はスカーフからバッヂを取って、さっそくベルトにつけてみた。
おぉ、かっこいい!完璧だ!



「できました!できましたよ自称アイドル師匠!」
「はいはい、よかったな」
「はい!本当にありがとうございます!」
「じゃお礼なんだけど」
「え゙っ、タダじゃないんですか!?」
「んなわけあるか!」



自称アイドル師匠はニヤリ、と不敵に笑うとゆっくり私に近寄ってきた。なんだ、何を要求するつもりだ。そんなことを思いながら、私は自称アイドル師匠を見つめる。



「そうだなー…キスにするか」
「キッ?!」



バッと片手で口を覆う私に、自称アイドル師匠は目を細めた。キス?きす?チュウ?あり得ない、私が自称アイドル師匠にファーストキスをあげるなんて。



「無理、無理です!」
「お前なー、作り方教えてやっただろ?それに材料だって買ってきてやったし」
「そっ、それは自称アイドル師匠が勝手に」
「文句言うなよ、減るもんじゃねぇし」



近付いてくる自称アイドル師匠に、私は嫌だと首を横に振る。ファーストキスはジャックがいい、ジャックじゃなきゃ嫌だ。



「すぐ終わるから」
「!?」



グイッと腕を掴まれ、引き寄せられる。うわっ近い近い近い!焦らすように近付いてくる自称アイドル師匠の顔にパンチを繰り出したいが、いきなりすぎて体が動かないのと自称アイドル師匠に腕を掴まれていて避けられそうにない。
もうだめだと目をギュッと瞑ったとき、自称アイドル師匠の扉が勢いよく開いた。



「なまえ!」
「!」
「お、やっと来たか」



え?自称アイドル師匠はそう言うとパッと私から離れた。どういうことだ。
ジャックに視線を移すと、物凄い顔をしていてそれが怒っている顔だとわかるのに少し時間がかかった。
ジャックはツカツカと自称アイドル師匠の部屋に入ってきて、私の目の前で止まった。



「ジャッ」
「何もされてない?」
「えっ、うん、まぁ」
「そう…」
「そう睨むなって。マジで何にもしてねぇから」



お手上げポーズをする自称アイドル師匠に、ジャックは私の手を掴んで部屋の外へと歩き出す。私はジャックに引かれながら自称アイドル師匠を振り返ると、1ヶ月飯奢れよーとにこやかに手を振っていた。そうか、自称アイドル師匠はジャックが来るのをわかってたんだ。
やられた、と思った私は自称アイドル師匠に向かって小さく頭を下げるのだった。














しばらく歩いた私とジャックはいつの間にかテラスへとたどり着いていた。テラスから見える夜空はすごく綺麗で思わず綺麗、と呟いてしまった。



「………」
「……そ、そこはなまえのほうが綺麗だよって言うところでしょうが!」
「…え?綺麗?誰が?」



きょとんとするジャックに私は少しだけムカッとくるがそれとは裏腹に、久しぶりに会えた喜びで顔がにやけてくる。にやにやすんなよー、と軽く言われるがジャックは逆にいつもより表情が固くなってるような気がした。



──ゴォーン

「!」



魔導院の近くにある町の鐘が微かに聞こえる。その鐘はいつも日付が変わった瞬間に鳴る。部屋の中にいると聞こえないが、外にいると微かに聞こえることがあるのだ。
その鐘を聞いて私は手に持っていたベルトをジャックに突き出した。不格好なベルトをジャックは凝視する。



「ジャック!」
「な、なに?」
「誕生日、おめでとう!」
「…え」
「こ、これ、プレゼント」



あんまり格好良くはないけど、と小声で言う。だってこのベルト、手作り感満載だから。ジャックは目を丸くさせてベルトを見つめる。



「…これ、僕に?」
「今そう言ったじゃん…」
「あ、そ、そうだよねぇ…」



ははは、と乾いた笑いをするジャックに私もへへへ、とつられ笑いをする。笑ったあとまた二人して黙り込んだ。どうしよう、気に入ってくれなかったかな、やっぱり手作りだったのが駄目だったのかな、と段々自信がなくなってきた。さっきまでは完璧だって言ってたのに、いざ目の前にすると自信が一気になくなってしまう。



「…あ、ありがとう」
「!え、も、もらってくれるの?!」
「えぇ!?だって僕にくれるんでしょ?」
「そ、うですけど」



私からベルトを受け取り、マジマジとベルトを見つめる。そんなに見つめないでほしいんだけど、あ、あそこ色がまだらになってる!



「ご、ごめんね、手作り、で」
「…ううん、すっ…ごい嬉しい」
「え…」



ジャックは頬を染めて少しはにかみながら私を真っ直ぐ見つめていた。私もジャックを真っ直ぐ見つめる。そんなにこれ、気に入ってくれたのか。にやけてくる顔を必死に抑えながら、ドキドキする胸を押さえる。



「ほんっとうにありがとう!」
「わっ」



突然ジャックが私に抱き着いてきて、一気に頭の中が真っ白になる。えっ、何この状況、もしかしてもしかしなくてもジャックに抱き締められてる?!



「じゃ、ジャック…?」
「……半月、なまえが僕にまとわりつかなくなってやっと静かになったって思ったんだ」
「えっ」
「だけどさ、なまえがいなくなったのになんか落ち着けなかったんだよねぇ」
「………」



ジャックは何が言いたいのだろう。私は黙ったまま耳を傾ける。



「気付けばなまえのこと、探してて」
「そっ、か…」
「探してる最中にエースから、なまえからもらったんだってキーホルダー見せつけられたり」
「………」
「なまえがエイトに抱っこされてるとこ見ちゃったり」
「………」
「ナインと手繋いでるとこも見ちゃったし」
「………」



なんだろう、ジャックのその言葉がズシズシ頭にのしかかる。しかもさっきもナギにキスされそうにもなってたし、とジャックが付け加え私は咄嗟にごめん、と謝ってしまった。



「別になまえが悪いんじゃないんだけどさぁ」
「すみません…」
「…でも僕気付いたんだ」
「…何を?」
「なまえのことが、好きだってこと」



え…?
そう呟く私に、ジャックは私の肩を持ってゆっくり体を離す。きっと変な顔をしているだろう。呆然とジャックの顔を見つめれば、ジャックはさっきよりも顔を赤くしていて、あぁ、嘘じゃないんだと実感した。



「わっ、私も…」
「知ってる」



照れ笑いを浮かべてそう言ったジャックを最後に、私の唇に何かが当たった。そして目の前にはジャックのどアップ。え?もしやこれは…え?



「…目、瞑れよなぁ」
「えっえ?い、いきなりすぎない?!」
「じゃあ、目瞑って」
「!」



こんなにもドキドキして大丈夫なのだろうか。顔も絶対真っ赤になっているだろう。ジャックにそんなことを言われ、平常心でいられるはずがない。どうすればいいのかワタワタと慌てていると、ジャックの顔が徐々に近付いてくる。



「え、あの、ちょ」
「なまえ」
「〜〜〜っ」



もうどうにでもなれ!そう思った私は目をギュッと瞑った。



「なまえとベルト、大事にするね」



そう小さく呟いたのと同時に本日二度目のキスをするのだった。





ジャック誕生日おめでとう!





「このバッヂ本当にもらっていいのー?」
「うん、ジャックにあげるために買ったんだから!」
「とか言って手に入れたときはくれなかったくせにー」
「こういうときのためにとっておいたの!」
「ふーん?…じゃ、なまえの誕生日は僕ごとあげようかなぁ」
「…えっ!?なっ、え!?」
「あははー顔真っ赤ー!」
「…く、くれるならもらってやる!」
「うん、じゃ、お願いしまーす」
「………えぇ?!」



──end



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