ジャックの心情




16日、食堂で夜ご飯を食べているとエースがやってきて僕の前の席に座る。僕はちらりとエースに視線を移すと、ふと胸ポケットから見えている金のチョコボが目に入った。やっぱりモヤモヤする。



「ジャック、眉間にシワ寄ってるぞ」
「えっ!」
「これ、欲しいのか?」



エースは金のチョコボのキーホルダーを僕に見せる。それはなまえがエースのために買ってきたものであって、僕が持つべきものではない。僕はいいやぁ、と言いながら首を横に振る。



「そうか、まぁジャックにはアイツがいるからいいか」
「アイツ?」
「なまえさ」
「えっ」



エースからなまえの名前が出た瞬間、心臓が飛び跳ね顔に熱が集まるのを感じる。たかがなまえの名前が出ただけだというのに、好きだと自覚したらこんな風になるなんて。
何も言えなくなった僕にエースは目を丸くさせ、そしてプッと吹き出した。



「はは、やっと認めたな」
「え、な、なにが?」
「なまえが好きだって認めたんだろ?」
「うっ………」



なかなか認めなかったよな、というエースに僕は恥ずかしくなって顔を俯かせる。なまえが僕の近くにいすぎたせいでなまえの存在が当たり前になっていた。でもいざいなくなって過ごしてみるとその存在がいかに大きかったか身に染みてわかった。



「やっとジャックがなまえを好きだって認めてくれて安心した」
「へ?なんで?」
「端から見てた僕たちは早くくっついたらいいのに、て思ってたからな」
「僕たちは…てことは皆知ってるの?!」
「なまえがジャックを好きなのは皆知ってるだろ。ジャックがなまえのことをどう思ってるか、今は僕しか知らないんじゃないかな」
「そ、そうだよね…はぁー」



もう皆に知れ渡っていたら恥ずかしくてどんな顔をして会えばいいかわからない。だからまだエースしか知らなくてよかった。
ホッと安堵の息を吐く僕に、エースは柔らかい笑みを浮かべる。水を飲もうとコップに手を伸ばしたとき、後ろから聞き慣れた声が僕の名前を呼んだ。コップに伸ばしていた手を引っ込めて振り返る。



「やほ〜」
「シンク…」



そこには片手を軽く振りにこやかな笑みを浮かべたシンクがいた。僕はどうしたの?と問い掛けると、シンクはいつものように両手を後ろに組み、体をクネクネさせて口を開いた。



「さっき〜、なまえたんがナギっちと居たんだけど〜」
「ナギと…?」



なんだろう、嫌な予感がする。シンクは未だにこにこしながらそう、ナギっちと〜、とゆっくり話す。



「それがさぁ、ちょっと変なこと聞いたんだけど〜」
「変なこと?」
「うん、変なこと〜」



焦らすように喋るシンクに僕はウズウズし出した。僕も比較的ゆっくり話す方だが、こう焦らされるとこんな気持ちになるのか、とこれからはもうちょっと早く話そうと心の中で反省する。シンクは人差し指を顎にあてて、その変なことを話し出した。



「なんかぁ、ナギっちの部屋で何かを教わるって言って二人で部屋に行っちゃったんだよねぇ〜」
「な、何かを教わる…?」



その何か、というのは何のことなのか。僕の頭の中で色んなことが駆け巡る。いや、なまえに限ってそんなこと…でも相手はあのナギだ。二人で何をするつもりなんだ。



「怪しいな」
「えっ!?」
「だよねぇ〜わたしもそう思う〜」
「なっなんで?だってあのなまえだよ?」
「バカだな、相手はあのナギなんだぞ」
「そ〜そ〜。だってぇ、男女が部屋で二人っきりってさあ…」
「!」



にこにこ顔からにやにや顔になるシンクと、何故か真剣な顔付きになるエースに僕は焦って席を立つ。そしてご飯を半分残したまま、エースとシンクにごめん、と言って走り出した。



「シンクは気付いてたのか?」
「ふふ〜、何となくジャックンはなまえのこと好きだろうなぁとは思ってたよ〜」
「女の勘ってやつか」



フッと笑うエースはジャックの後ろ姿を見て、頑張れよ、と小さな声でエールを送った。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -