「助けてぇぇえ!」


「あはははー待ってよなまえー」





授業が終わった瞬間、ジャックが私の席に速攻来て私を捕まえようとしてくる。
これが悲しいかな、いつもの日常光景となりつつある。

ジャックは小さい頃から私を捕まえてはなかなか離そうとしない。
というか離れようとしない。

エイトが言うには(ジャックに聞いた)逃げる私が可愛くてやめられないらしい。
ジャックはとんだドSだった。





「セブン!助けて!」


「はぁ…またか…」





私はセブンの後ろに隠れる。
セブンは溜め息をついて呆れている様子だ。
ジャックはニコニコと不気味に笑いながら私とセブンに近付いてくる。
ジャックの不気味な笑いに、セブンは引いたのか少し後ずさった。





「隠れても無駄だよー?セブンに助け求めたって僕は諦めないからね。わかってるよねぇなまえ?」


「ひぃぃ!セブンー!お願いー!助けてー!」


「……はあ」





ジリジリ迫ってくるジャックになまえはとうとうセブンから離れ逃げ出した。
セブンはジャックに今まで何百回もなまえを追い掛けるのをやめるよう言ってきたが、この有り様だ。
もはや成す術なし。





「もういやだぁぁああ!」


「待て待てぇ」





なまえは全力疾走。
もちろんジャックもそのあとを追う。笑顔で。
その様子からジャックはまだまだ速く走れるのだとわかる。
しかしなまえの逃げる姿がかわいいからなまえに合わせて走る。


次の授業が始まるまで、2人はいつまでも追いかけっこをするのだった。



































「はぁ…はぁ…」


只今私は教卓の下に隠れています。
皆はお昼ご飯を食べに行っているのか、教室には私一人。
ジャックから逃げて逃げて逃げついた先が教室の教卓の下。

息を整えつつ、これからどうするか作戦を考える。
今日はもう授業がないし、夜までここで過ごそうか。
でも夜まで教室に居たら怖いな…だからといって無闇に出るとジャックに捕まってしまうし。





──キィ、バタン





「!」


教室の扉が開いた音がした。

まさかジャック!?

コツコツコツ、と足音がだんだん教卓に近付いてくる。
冷や汗が頬を伝う。
こうなったら魔法を唱えて怪我でもさせてしまおうか、いや、そんなことしたらマザーに怒られてしまう。





──カタ





「!」


小さな光が私を照らす。
私はその光に目を向けると、トンベリが私を見つめていた。
目が点になる私にトンベリが首を傾げる。
トンベリが首を傾げるので私も首を傾げる。
小さな光ってトンベリのランタンだったのか。





「……ここで何をしている」





私は上を見上げると、クラサメ隊長が眉間にシワを寄せてこちらを見ていた。
ああ、よかった。
クラサメ隊長だったのか。





「あ、じゃ、ジャックから隠れてるんです…」


「………」





クラサメ隊長はやれやれといった表情で、トンベリはトンベリで未だにランタンをこちらに向けていた。





──バッターン!!





教室の扉が物凄い勢いで開いた音がした。
ビクッとびっくりする私とトンベリ。
クラサメ隊長は真っ直ぐ教室の扉のほうを見ていた。





「あれ?クラサメ隊長ー?なんでここにいるのー?」


「…忘れ物を取りにな。ジャック、そんなに慌ててどうかしたのか?」


「あ、そうそうー!隊長、なまえ見なかったぁ?」





ジャックがクラサメ隊長に問い掛ける。
ヤバい、このままじゃ見つかる。
そして捕まる。
捕まったら、一緒にお風呂入ろうとか一緒に寝ようとかの攻防が始まってしまう…!
今のところ阻止してるけど!

クラサメ隊長…言わないで…!

私はトンベリを抱き締めた。
包丁が私に刺さらないように避けてくれるトンベリは優しい。





「…見てないな」


「!」


「そうー?どこ隠れちゃったのかなぁ…全くー」





そう言うとジャックは教室から出ていった、らしい。
私はまさかクラサメ隊長が嘘をつくなんて思わなかったので、クラサメ隊長を凝視してしまった。





「…お前も大変だな」


「へ、」


「このままでは見つかるのも時間の問題だ。今のうちにどこかへ行ったほうがいい」





クラサメ隊長はそう言うと教卓から離れる。
しかし、私から離れたトンベリが隊長の裾を引っ張り足止めする。
クラサメ隊長はトンベリを見、トンベリもクラサメ隊長を見上げている。

この2人(?)何を話しているんだ…?





「……………」


「……はあ。仕方ないな」





話し終わったのか、クラサメ隊長がこちらを振り返る。
トンベリは何を隊長に訴えたのだろうか。





「暫く私の部屋でゆっくりするといい」


「え…!」


「…トンベリに感謝するんだな。着いてこい」





そう言うと歩き出した隊長に開いた口が塞がらないという状態で突っ立っていると、トンベリが私の足元に来て見上げていた。

どうやらトンベリが私に同情してクラサメ隊長に頼んだらしい。

モンスターに同情される私って…?
いや、トンベリに感謝しなくちゃ。

私はトンベリにありがとう、とお礼を言いクラサメ隊長の後を追った。






























クラサメ隊長の自室なんて滅多に入れるわけがない。
というか絶対こんな機会はない。
部屋の扉の前で生唾を飲み込む私。
ていうか自室って。
ジャック以外の男の人の自室になんて入ったことがない(ジャックのときは無理矢理だったが)

変な意味で緊張してしまう。





「…そこにいると見つかるぞ」


「…はっ!」





慌ててクラサメ隊長の自室に入り、扉を閉める。
適当に座ってろ、と言われましても、どこに座れば良いのやら。
すると包丁を置いたトンベリが自分の横をぽんぽん、と叩いた。
それは自分の隣に座れということか。
私はトンベリに従い、隣に座った。正座で。





「私は少し用があるから出るが、部屋は好きに使ってくれて構わない。トンベリもお前の側に居たいらしいからな。お前の好きな時間に帰るといい」


「!あ、ありがとうございます!」





そう言うとクラサメ隊長は目を細めて部屋から出ていった。
あれは、もしかして微笑んでくれたのだろうか。
クラサメ隊長かっこいい…!

隊長が出ていくと正座していた足を崩し、大きく溜め息をついた。

でも、ここなら絶対見つかることはない。


私はトンベリと向き合い、頭を撫でたり、抱き締めたり、尻尾を引っ張ってみたり(抵抗されたが)久しぶりにゆったりとした時間を堪能したのだった。














気がつくといつの間にか寝てしまったらしい。
私の体には布団がかけられていた。
寝惚け顔で回りを見渡すと、クラサメ隊長と目があった。
私が起きたのに気付くと、隊長は溜め息をついた。
なんだか私、隊長に迷惑かけてる…!?





「全く、随分寝ていたな。そんなにゆっくりする時間がないのか」


「え、え…まぁ…そうですね…」


「あまり無理をするなよ」





どうしてかクラサメ隊長が私に同情の眼差しで見ている気がする。

気のせい?気のせいだよね?気のせいだと思いたい。

私はクラサメ隊長にお礼を言い、部屋を出ようとしたら隊長に呼び止められた。





「?」


「またジャックに追い掛けられたら、トンベリに言うといい」


「え?」


「無理ばかりしていたら、任務に支障をきたすからな。トンベリならなまえを護ってくれるだろう」





トンベリの頭を撫でる隊長にトンベリは任せろ、といった風に包丁を高々と掲げた。
こうして私に心強い味方ができたのだった。
























(なまえ、昨日はどこ行ってたのさぁ!)
(ジャック…!もうジャックに負けないぞ!)
(へ?なぁに言ってんの。ほら、大人しくつかま………)
(いけ、トンベリ!やっちまえ!)
(え、ちょちょちょ!は、刃物マニアをいつ味方につけた!)
(…………………)
(いたっ!痛いって!ちょ、隊長ー!トンベリがご乱心だよー!)
(……ジャック、反省しろ)
(え?え?なんで!?いだ!こら!刺さる、いやもう刺さってるからぁあ!)
(もっとやれー!)







こうして仲良くなった私とトンベリは一緒に過ごす時間が長くなりましたとさ。




(…最近私よりもなまえといる時間が長いな)
ガチャ
(あ、隊長!お邪魔してます!)
(………厄介なことになってしまったな…)






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