ナギと。















隊長から突然の呼び出し。
呼び出される理由は何なのだろうと考えながら、10組の教室に向かう。
別に呼び出しされるようなヘマはしていないはずだし、成績もまぁ悪くはないはず。
そんなことを考えながら10組の教室に入る。

教室に他の子はいなくて、私と隊長だけしかいなかった。





「あの、」


「ああ、来たか」


「何か用ですか?」


「君に異動命令が下ったよ」


「……え!?異動命令?!」





隊長は私の前に紙を差し出した。
そこには、私の名前と9組へ異動を命ずる、とだけ書いてあった。
よりによって何故9組なのだろう。





「な、なんで9組…!?」


「上からの命令だ。ということでお前は明日から9組だからな」





マントは部屋に送っておくから今着けてるマントを返してくれ、と言われ何も言えないまま私のマントを隊長に渡す。
9組といったらマグレ組と言われていて、落ちこぼれが集まる組だともっぱらの噂だ。

どうして私が…!

衝撃過ぎたのとショックが入り交じって何も言葉を発せないまま10組を後にした。
暫く私は自分の部屋で呆然とするしかなかった。




















──ピピッ





翌朝、いつの間にベッドで寝ていたらしい私は無線の音で目が覚めた。
COMMは机の上に置いてあるのでベッドから身を乗り出し手にとって繋げる。





「……はい」


『おはようさん。あんたが今日から俺ら9組に入ってくる新人さんか?』


「………はあ」





この特徴的な声。
どこかで聞いたことがある。
どこだっけ、うーん…。





『おい、聞いてるか?』


「……あ、はい、何ですか?」


『聞いてねぇじゃねぇか!だから、今日俺とお前で任務だって言ったんだよ。わかったか?』


「……え?任務?」


『お前……直々に俺が起こしに行ってやろうか?』


「えー…私の部屋わかるんですか?そんなバカな」





──コンコン





「………」


『今お前の部屋の前にいるんだけど。ああ、部屋の中まで迎えに行ったほうがいいか?』


「えっ、遠慮します…!」





何者!
この人何者な訳!?
怖いよ、この人ストーカー!?

私は慌てて身支度を済ませ、自室の扉をそうっと開けた。
目の前にはにこやかな笑みを浮かべる爽やかな青年の姿があった。
あ、この人、まさか。





「やっと出てきたか。初めまして、だっけか?なまえ」


「じ、自称みんなのアイドル野郎…!」


「自称じゃねぇっつの」





自称みんなのアイドル野郎ことナギ・ミナツチが溜め息を吐く。
この人はまぁみんなのアイドルとまではいかないがそこそこ有名な人ではある。
容姿はかっこいいし、まあ気遣いもできるし面白いし、と友人から聞かされたことがある。

そんな人が、まさか私と任務だなんて。
ていうか何の任務?





「あの、任務って…?」


「朱雀へスパイに来てた皇国兵が自国に戻る前に暗殺、そいつが持ってる朱雀の密書を奪い返す任務だ」


「え!?」


「詳しい話は歩きながら説明すっから。行くぞ」





歩き出したナギに私は慌てて追いかける。
朱雀へスパイに来てた皇国兵を暗殺?朱雀の密書を奪い返す?
どういうことだ、これじゃあまるで汚れ仕事ではないか。
頭の中が混乱している中、ナギは落ち着いた様子で事を話し始めた。





「9組ってのは諜報部と繋がってんだ」


「えぇ!?ちょうほぶっ」


「声でけぇよ!」





口を塞がれ何も喋れなくなる。
ナギに次大声出したらその口火傷するからな、と脅され自分で口を押さえる私。
ナギはそんな私を小馬鹿にしたように笑い、続ける。





「まぁ驚くのも無理はないよな。知ってんのは上の奴等くらいだし。9組の任務はだいたいが汚れ仕事だ。で、新人だから今回は俺と一緒っつーこと」


「…んーんんんんん」


「何言ってんのかわかんねぇよ」





正面玄関を出て外界に出る。
そのスパイというやつは今は町の中で身を潜めているらしい。
夜になったら移動するはずだ、と言いスパイが身を潜めている町の中へと入る。
あまり外界に出たことがない私は顔をあちこち動かす。
そんな私にナギは呆れ顔をする。
しょうがないじゃないか、滅多に外界に出たことがないんだから。





「ここの隣に奴が泊まってる」


「へぇー」


「で、今夜町から出ていくのを見計らって奴を殺す」


「ほぉー」


「……お前が殺るんだぜ?」


「ふーん……えぇ!?私が!?」


「ああ」





昨日まで10組だった私が今日から9組になり、そしていきなりスパイを殺す、だなんて。
そんなこと急にできるわけないじゃないか!





「無理っつってもお前が殺らなきゃいけねぇんだよ。俺は見守る係」


「9組に見守る係なんてあってたまるか!」


「あるんだよ、現に俺が見守る係やるっつってんだから。いいか、外に出てから殺るんだぞ。町の中は混乱を招きかねないからな」


「りょ、了解です…」





これはもうやるしかないらしい。
ナギもこの様子だと手を出すつもりはないようだし。
俺はお前の隣に泊まってっから、じゃあな、と言い部屋の中へ入って行った。
私も仕方なく部屋に入り、夜の任務に向けて準備を始めた。


























──夜





私は部屋の扉に耳をつけて待機。
もうすぐ日付が変わる頃、隣の部屋の扉が開く音がした。
靴の音が段々遠退く前に私も部屋から出て、今回のターゲットの後をつける。














町からだいたい500mは離れただろうか。
この辺で仕留めるか、と思い一気にターゲットに詰め寄った。


ターゲットの後ろからダガーを取り出し斬りかかろうとしたその時。





──パーン!





「っ!」





銃声と共に肩に激痛が走った。
その反動でダガーが手から落ちてしまう。
しまった、と思ったときにはターゲットがこちらに向かって剣を振り上げていた。
まさか、ターゲットの援護をする奴がいるなんて、聞いてないっつーの!

傷に手を当てているため、剣を防ぐ術もない。
剣が私に向かって振りかかる。
9組になって初の任務で死ぬのか、なんかカッコ悪いなぁ、と諦めかけたその時。





「あああっ!」


「なまえ!」


「っえ、」





突然、ターゲットの手が宙を舞う。
呆然とする中、ターゲットは反対の手で再び剣を拾い、私へ振りかざす。
私は間一髪その攻撃を避けるが、肩の痛みにより片膝をつく。





「ゔおおおっ!」


「いっ…!」


「チッ、早くくたばれよ」





私の目の前に現れたのはナギで、その言葉と共にターゲットは崩れ落ちた。
血飛沫が散る。
私はナギの背中を見つめる。

振り返ったナギの身体はあちこちがターゲットの血で濡れていた。





「大丈夫か?」


「あ、」


「あぁ、もう一人は始末したぜ。ったくあいつが密書を持ってやがってよ」


「…そ、う」





今更肩の痛みが激しくなったような気がした。
肩を抑える手に自然と力が入る。





「…ありがと」





あのままだったら私が殺られていた。
それをナギが助けに来てくれて助かったし、任務も無事に終了した。
それでも私はあまりにも無力だと思い知らされた。

少し、いやだいぶ凹んだ。





「…まぁ、9組に入って初めての任務だし、仕方ねえよ。これから慣れていくしかねぇし」


「…うん」


「んないつまでも凹んでんなって。ほら、肩貸せ」





そう言うとナギは私の肩にケアルを当てる。
少しずつ癒えてくる傷に、私は目を伏せた。
ナギはそんな私を見て、何故か手を私の頭に乗せ撫で始めた。





「しょうがねぇなぁ。なまえが慣れるまで俺が任務に付き合ってやるよ」


「…え」


「なまえに死んでほしくねぇし、上の奴には言っとくから」


「は」





だから元気出せ、とナギはかっこよく笑った。

……かっこよく?

かっこよくって、え、?

自称みんなのアイドル野郎にまさか、私が、こんな奴を?






















(てことで、今回も俺と任務な)
(いやいやいや!ナギと一緒の任務になってもう20回は超えたよ!さすがの私も慣れるって!)
(無駄口叩かないで行くぜー)
(も、一人で行かせてー!)









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