エースと。










二ヶ月前、私は0組へ異動を命じられた。

初めて0組の人と対面したときは自己紹介もそこそこに、色んな人と友達になった。
任務もそこそこ役に立っていると思う。
あくまで思っている、だから実際はどうかわからないけれど。

しかし私には何となく苦手というか、そんな人がいる。


































お昼休みが終わる頃、もうすぐ授業が始まろうとしているのにエースがいない。
きっと裏庭のベンチで寝ているだろう、と皆口を揃えて言うが誰も呼びに行こうとしなかった。
あのクイーンでさえも、本に夢中なのか席を立つ気配すらなかったので、仕方なく自分が呼びに行くことにした。





裏庭へ続く扉を開けると、ベンチの上で横になってるエースの姿がすぐに飛び込んできた。
ベンチに近付いていくときに靴の音を、少しだけ大きくたてる。
そんな乱暴に大きな音は出していないが、私が起こす前に起きてほしいと願っての行動だ。

しかし残念ながらベンチの目の前まで来てしまった。
エースは気持ち良さそうな顔をして寝ている。

授業がなかったらこのまま寝かせておいてあげたいのだが、生憎もう少しで授業が始まってしまう。
私は意を決してエースの肩を優しく叩いた。





「え、エース…?」


「………」


「………」





返事はない。
その代わり、リズムよく息の吸う音と吐く音が返ってくる。
どうしたものかと、腰に手を当てる。
もう少し強く叩いてみるか。

さっきよりも少し力を入れて叩いてみた。





「エース…!」


「……ん」





エースが反応する。
そしてゆっくりエースの瞼が上がる。
完全に上がりきったとき、私たちの間に沈黙が走った。

さきに沈黙を破ったのは、エースだった。





「…もう授業?」


「あ、うん、授業始まるよ」


「そうか…起こしてくれてありがとう、」





ゆっくり身体を起こし、こちらを見るエース。
無表情な顔でお礼を言われ、どういたしまして、としか返せない私。
そしてエースは教室へ入っていった。



そう、私はエースが苦手だ。

そして私がエースを苦手な理由。

私と話してるときのエースは本当に素っ気ないのだ。
どうしてかと問い掛けたいくらい、素っ気ない。
皆は普通だと言い張るが、私にはどうしても気になってしまう。
だって本当に私には素っ気ないんだもん。


エースが教室に入ってから私もすぐ教室に入る。
クラサメ隊長はまだ教室に来てはいなかった。








































皇国兵の殲滅。
今日の任務の内容だ。

特にこれといった危険はないのだが、町が広いため皆散らばって行動することになった。
私は大きな建物の間を歩く。
たまに上から皇国兵が狙って撃ってくるが、こちらも魔法で仕留めていく。

クイーンやデュースと行動していたのに、何故か2人とはぐれてしまい1人になってしまった。
突然1人になってしまって心細いし怖いしでビクビクしながら静かに歩く。
魔法とかを使える余裕はなんとかあるが、今は1対1だから私も対応できるだけであって、もし複数で襲いかかってこられたら流石にヤバいだろう。


早く誰でもいいから合流しないと。


そんな焦りがあるのか自然と足が段々速くなる。





「!」





バッと後ろを振り返る。
しかしそこには誰もいない。
後ろに人の気配を感じた。
もしかして皇国兵だろうか。

私は慎重かつ足早に歩く。
後ろの気配はやはり気のせいなんかではなくて、確実に誰かが着いてきている。
0組だったらすぐ話しかけに来てくれるはずなのに、それもないということはやはり皇国兵なのだろうか。





「!」


「!貴様…!朱の魔人か…!」





後ろにばかり気をとられていたため、曲がり角に皇国兵がいるのに気がつかなかった。
皇国兵は銃を振り上げる。
私も武器を出そうとするが、この距離だと間に合わない。

殺られる…!





「!うあ゙ああああ!」


「!?」





突然声を上げて倒れこむ目の前にいた皇国兵。
そして後ろからも私の近くで皇国兵の呻き声と倒れる音がした。



振り返るとそこにはエースの姿があった。





「大丈夫か?」


「………」


「…なまえ?」


「え!あ、うん、大丈夫、」


「怪我もないか?」


「う、ん…あ、ありがとう、」





心配そうな顔をするエースに私は困ってしまった。
こんなエース、私は今まで見たことない。





「い、いつから?」


「ああ、皇国兵がこそこそとしていたから気になって後をつけたんだ。そうしたら、なまえが見えて」


「そう…」





やっぱり後ろから気配がしたのは皇国兵だったのか。
エースが気付いてくれなかったら、私は死んでいたかもしれない。

そう思ったら身体が震えた。
死んでも生き返るとマザーは言っていたけれど、やっぱり死ぬのは恐い。
血を流すのが、恐い。





「………」


「なまえ?」


「…!あ、ごめん、何でもない。行こっか」


「………」





私は歩き出す。
自分の足が震えているのがわかる。
けれどエースに悟られないように平気な振りをする。
だってあれだけで足が震えるだなんてカッコ悪いじゃない。





「なまえ」


「え?おわ、」





いきなり腕を引っ張られ、エースのほうへとよろけてしまう。
気がつくと、エースの手は私の後頭部を抑え、目の前は制服でいっぱいになった。
抱き締められてはいないが、後ろから見たらこれは抱き締められているように見えるのだろうか。





「…足、震えてるぞ」


「!え、ええ、何言ってるのエース」


「僕が気付かないとでも思ってたのか?……あんまり、無理はするなよ」


「………」





こんなときに限って優しくなるなんて、エースは狡い。

後頭部から手が離れて、頭が軽くなったため持ち上げる。
顔を上げるとそこにはエースの顔のアップが。
私は素早くエースから離れ、顔が段々と赤くなってくるのがわかった。





「?大丈夫か?顔、赤い気が」


「だっだだ大丈夫!な、なんかこの辺熱くない!?きっとそうだうんそのせいだよ!」


「……この辺逆に寒い気がするんだが」


「え、エースの気のせいだ、よ!?」


「早く皆と合流してマザーに診てもらおう」





私の手をとるエースにまた顔が赤くなるのがわかった。

どうしてこういうときだけ優しいんだ!
そんなギャップ見せられたら…!






















(あ、エース!なまえ!)
(クイーンー!デュースー!)
(ごめん2人とも。なまえは僕が預かるから)
(え?な、なんでって、あー!クイーンー!デュースー!)
(……全くエースも素直じゃないですね)
(ふふ、恥ずかしがり屋さんですからね)











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