短編 | ナノ

キングと尻(6)




「全く、何故あのような場所にいたのです?しかも一人で」
「えー、と、武器に必要なある材料が欲しくてですね」
「だからといって一人で凶暴なモンスターを相手にするなんて、無謀にも程があるでしょう!私たちがいなかったら今ごろあなたは死んでいたかもしれなかったんですよ?」
「ご、ごめんなさい、すみません、ご迷惑お掛け致しました……」
「……トレイ、そこまでにしたらどうだ?」
「そうだよぉ〜、この子だって凄い反省してるんだし、そんなに怒んないであげて〜」



ねぇ〜?とシンクは言いながら、12組を示すマントをしている彼女、なまえの頭を撫でる。彼女はシンクに頭を撫でられていることに戸惑いながらも、涙目でトレイを見上げた。その表情にトレイは言葉を詰まらせる。やがて、深い溜め息を吐くと「こういうことは二度とないようにしてくださいね」と彼女に忠告した。



「はい……本当にすみませんでした」
「とにかく、無事に帰ってこれたんだ。もう謝らなくていいから、な?」
「トレイが沢山怒ったからこの子萎縮しちゃってるじゃん〜」
「わ、私はただあの洞窟に単独で入ることがどれだけ危険なことか言いたかっただけであって…」
「トレイさん、エイトさん、シンクさん!」
「ん?どうした、デュース」



デュースが声をあげて部屋に入ってくる。その場にいる全員がデュースのほうへ顔を向けると、デュースの背後から見慣れた人物が現れた。



「キング…?」
「あれ〜?なんでここにキングが〜?」
「来るのが速すぎませんか?」
「き、キング、さん…?」
「はぁ、はぁ、はぁ……」



キングは肩で息をしていて、見るからに急いできたのだとわかる。キングはトレイ、シンク、エイトに目配せすると、三人は何かを察したのかキングと彼女を残してそそくさと部屋から出ていった。いきなり三人がいなくなったことになまえは焦りを隠せず、あたふたとする。



「き、キングさん、なんでここにいるんですか?あ、あれですか?わざわざ私にお尻を見せてくれるために来たんですか?えぇと、私動けないんでそのまま後ろ向いてくれたら助かるんですけ」
「っの馬鹿が!」
「どえぇっ!?」



いきなり怒号を浴びたなまえは首を竦めて布団の中に潜り込む。そしておそるおそる布団から顔を覗かせると、険しい顔をしたキングと目が合った。目が合うとより一層キングの眉間に皺が寄る。



「ご、ごめんなさいぃ…」
「……何に対しての謝罪だ」
「えっ……えと、キングさんが、怒ってるから…」
「俺が何に怒ってるのかわからないのか?」
「何に、と言われましても…」
「……はあ」



呆れて物も言えないキングになまえは首を傾げる。彼が何に対して怒っているのか、本気でわからないらしい。キングは近くにあった椅子を持ち、ベッドの側においた。そして静かに腰をかける。



「…なまえ」
「は、はひ…」
「お前、鍾乳洞で何をしていた?」
「それは……」
「正直に言え。怒らないから」



未だ表情は険しいままだけれど、いつになく真剣なキングになまえはしゅんとさせながら小さな口を動かした。



「私、言いましたよね、特注のものを使えばキングさんの拳銃を改良できるって」
「その特注のものが鍾乳洞で取れるから来たということか。しかも一人で」
「…察しが良いですね、さすがキングさん」
「で、鍾乳洞にいる凶暴なモンスターに殺られかけた…というところか」
「や、殺られかけただなんて物騒な…ただ戻るときに道を間違えてしまっただけで…」
「動けないほどの重症を負った奴はどこのどいつだ」
「…私でございます…」



もはや何も言うまいとなまえは押し黙る。そんななまえにキングは腕を組んで二度目の溜め息を吐いた。なまえは怯えるようにキングを見ていると、キングの腕がおもむろに動き出す。手がこちらに伸びてくるのに気付いたなまえは、ぶたれると思ったのか思いきり目を閉じた。
しかし、いくら待てども衝撃はこない。それどころか額に何かが当てられて、そこから暖かいものが自身の身体に流れ込んできた。なまえはおそるおそる目を開ける。



「…キング、さん?」
「……たかが武器のために、無茶をするな、この阿呆」
「あ、阿呆、て…さっきも馬鹿って言いましたよね…」
「事実を言っただけだが?この惚け茄子」
「ぼっ……」



なんだかんだ言いつつも、額から流れ込んでくる暖かく優しいものに、なまえは目を細める。キングはそれに気付いたのか罰が悪そうになまえから顔を逸らした。不意になまえがキングの名前を呼ぶ。



「キングさん」
「…なんだ」
「たかが武器って言いましたけど、たかが武器のために行ったんじゃありませんから」
「?、どういうことだ?」
「私はたかが武器のためなんかじゃなくて、キングさんの武器だからこそ行ったんです」
「は…?」
「これがキングさん以外の武器だったら、ここまで来てませんよ」



はにかみながら言うなまえに、キングは目を丸くする。ふとキングの脳裏にケイトの言葉が過った。

「なまえはアンタのことが好きだってアタシは言いたいのよ!」

それが本当なのかは本人から聞いてみないとわからない。でもそれを聞いた自分はどう思った?正直、嫌とは思わなかった。むしろくすぐったい気持ちになったことを、自分自身認めたくなかった。
認めたくなかったのに、胸に込み上げてくるものを感じたキングは頭を抱えてまた溜め息を吐く。

なんでよりによって俺はこいつなんかを…。



「キングさん?」
「…あぁ、何でもない。それでお望みのものは手に入ったのか?」
「え、あーそれが…洞窟の中に落としてしまったようでして」
「…………」
「あ、大丈夫ですよ!全快になったらまた取りに行きますから!」
「…俺も行く」
「……え?」
「お前一人で行って、また危険な目に遭ったらどうするんだ。今回はたまたまあいつらがいたから助かったが、次行ったら今度こそ死ぬぞ」
「えーと、その時はその時じゃないですか?…ほら、私が死んでもクリスタルが忘れさせてくれるし」



悲しげに笑うなまえを見てキングは苛立ちを覚える。最後まで自分勝手なことばかり言うなまえに、キングは彼女の髪の毛をぐしゃぐしゃにした。いきなり何をするんだと驚くなまえを見てキングは鼻で笑う。



「お前が死んだら、俺の武器はどうなる?」
「は、そ、それは…」
「改良できるのに性能が悪いまま使わせる気か?」
「あぅ……」
「性能が悪いまま使って万が一俺が死んだらどうするんだ」
「…………」
「…なまえ」
「…はい」
「武器のためでも、何でもいい。だから、生きろ」
「!」
「俺にはお前が必要なんだ」



真剣な表情でなまえを見つめる。なまえはぱちぱちと瞬きを何回かしたあと、突然ボッと顔を真っ赤にさせて頬に手をあてた。狼狽するなまえに、キングはフッと笑う。
その時、扉の向こうからこそこそ話す声がキングの耳に入った。



「いけ、ここで押し倒せ!」
「押し倒すのはまだ早いんじゃないー?ここはまずキスからでしょー」
「キングもなかなか臭い台詞吐くんだな」
「はっきり言わないところがキングらしいな」
「オイ俺にも見せろコラ」
「ナインにはまだ早いよ〜」
「そういうことだったんですね…全く私にも教えて頂きたかったです」
「キングさん、頼もしいですね」
「あ、あなたたち、覗きをするなんてはしたないですよ…!」
「そう言いながら身を乗り出して見てるクイーンこそどうなんだ…」
「お前たち、そろそろそこまでにしておかないと……」

「…………」
「…………」
「き、キングさん…?」
「あいつら…!」



その数秒後、宿屋にキングの怒号が響いたのは言うまでもない。