短編 | ナノ

手に入れるための手段




男は信じられない。前に付き合った人は私の知らない内に浮気をしていた。その前に付き合った人は私のいないところで私の悪口を言っていた。その前の前の人なんかは罰ゲームで私と仕方なく付き合ったという。もう本当に男運がない。本当に、男運が、ない!


「もう私誰とも付き合わない」
「はあ?いきなりどうしたんだよ」


そう言いながらジュースを一気に飲み干す。ナギはそんな私を呆れ顔で見ていた。そうだ、そもそもこいつが私の恋愛事情に首を突っ込んできたせいだ。
私が誰かと付き合ったら、何かと変な情報を聞かせてくれる。第一私はそんなの頼んだ覚えはない。なのにナギの口から出るのは「あいつこの間女と一緒に部屋入っていったの見た」とか「あいつお前の悪口言ってたぜ、嘘じゃねえよ。これ聞いてみな」って言ってレコーダー聞かされたりとか「あいつこの間の賭けで誰かに告白しろって罰ゲームやらされてたぜ」とか。全部全部、ナギのせいだ。
そう思いながら、人のせいにしたがる自分に嫌気がさす。私も私だ。騙される私も悪い。ナギのお陰で彼氏にハマる前でよかったと思う。モテ期だなんだと浮かれまくっていた自分が恥ずかしい。


「男なんて嫌いだ」
「おいおい、俺も男だぜ?」


そう言うナギをちらりと見る。私みたいにモテ期がどうとか関係なくナギはモテている。毎日がモテ期のくせに魔導院で一人の女と一緒にいる姿は見たことがない。大抵、3、4人連れ歩いている。あれ、こいつ最低じゃない?


「ナギ最低」
「え?!なんでそうなった!」
「…ナギはさ、好きな人いないの?」


頬杖をついてナギを見る。私の言葉に目を少し開かせて、そしてふっと笑った。


「いるっつったら?」
「…へぇ意外」
「おい棒読み」


ナギの突っ込みに笑いながら、胸の奥がきゅっと締め付けられる。ナギにも好きな人がいるんだと思うと少し切なくなった。


「なまえってさ、過去に付き合った奴全員とも告られたんだっけ?」
「うん、まあ…。好きな人もいなかったし、付き合う内に好きになるかなって思ってたけど」
「軽い女」
「るっさい。だって、告白なんてされたことなかったんだから浮かれるに決まってるじゃん」


ナギの言葉がグサッと心に突き刺さる。人生初めて告白されたのだ。浮かれないわけがない。好きな人がいなかったから付き合っただけで、ていうか付き合った後ナギの情報のせいで全部だめになっちゃったんだけどその辺こいつはわかっているのだろうか。


「お前好きな奴いないの?」
「…なんでナギに言わなきゃいけないの」
「情報あげようかと思って」
「余計なお世話だ馬鹿」


その情報のせいでどれだけ振り回されたことか。もうナギからは何も聞きたくない。男は信用ならないけどナギの情報を信用してしまうあたり、こいつに対してだけは少なからず信用しているんだと実感する。はぁ、ナギが女だったら親友になれたかもしれないのに。


「なあ、なまえ」
「なに?」
「もうさ、俺でいいじゃん」
「は…?」


一体何が、と眉をひそめる私に、ナギは真剣な表情で真っ直ぐ私を見ている。何がどうなって俺でいいじゃんってなった?意味がわからない。


「わかんねぇの?」
「えっ、何が」
「俺がなんで付き合ってる男の情報をわざわざお前に渡したと思う?」
「た、ただ単に面白がってたんじゃないの?」
「はぁ…、そんなくだらねぇ情報誰が面白がってかき集めるかよ」


片手で額を押さえるナギがますますわからない。面白がってなかったのなら、一体なんでそんな情報を私に――。
そう思いながら、ふとナギを見る。少しだけ見える耳が赤くなっていることに気付いて、どくんと胸の鼓動が高鳴った。段々顔が熱くなってくる。


「……え、いや、ちょっと待って」
「今更かよ…」
「えぇ、あの、え?私の勘違いじゃ、ない、よね?」
「……おう」


そう短く返事をしたあとナギは私から視線を逸らして溜め息を吐いた。心なしかナギの頬も赤く染まっているような気がする。


「な、なな、い、いつから…?」
「…お前が誰かと付き合い始めた頃から」
「え?!そんな前から?!」
「お、俺だって最初は認めたくなかったっつーの!しかも別れたと思ったらまた誰かに告られて付き合ってるし」
「だっ、だって……」
「で、情報かき集めて暴露して別れされることに成功して、よし告白するかと意気込んだらまた誰かと付き合い始めてるし。俺なんでお前が好きなんだろうって思ったわ」
「うっ…ごめん、なさい…」


あれ、いやちょっと待て。なんで私が謝ってるんだろう。


「で、返事は?」
「へ?」
「…なんだかんだ言ったけど、やっぱり俺はなまえが好きだ。無理矢理別れさせたような真似して悪かったとは思ってる。けど、あんな男共にお前を渡してたまるかよ」
「なっ…ナギ…」


そんな殺し文句を言われてしまったらときめかないわけがない。どうしよう、目の前にいる男が輝いて見える。付き合った人たちから告白された時よりも全然違う。なんで、もしかして私。


「…………」
「…………」
「…なんか言えよ」
「えっ、あ、うん…」
「……言っておくけど」
「え?」
「俺、お前を手放す気ねぇから」
「!」


ナギはふっと笑って私の頬を撫でる。もう全部見透かされていると悟った私は首を縦に振るしかなかった。