短編 | ナノ

押し倒した結果




私はジャックが好きだ。好きすぎてどうにかなりそうなくらい好きだ。それをジャックに言っても「僕も大好きだよー」と軽く返されるだけで、全く真剣に受け止めてくれない。来る者拒まず。ジャックにはその言葉が似合う。去る者追わず。その言葉はジャックに当てはまるかは謎だ。やってみようとしても私はジャックが大好きだから、去れないし去るつもりもない。つまり私はジャックをこの上なく愛しているのだ。

「どう思いますか!」
「何がだよ」

リフレでジュース片手にナギさんに詰め寄る。ナギさんは明らかにめんどくさそうな顔をして、私の頭を手で押し返した。ナギさんは皆から人気者だ。そのナギさんを今日1日独占してしまって申し訳ないと思いながら、ジュースを一気に飲み干した。

「ジャックが好きすぎてつらい」
「あっそ」
「ナギさん冷たい」
「お前めんどくせぇもん」
「ナギさんが"もん"なんて使っても可愛くない」
「話はそれだけ?俺忙しいから行くわ」
「ごめんなさいごめんなさい、話聞いてくださいお願いします」

平謝りする私を冷たい眼差しで見るナギさんは少しかっこいいと思う。いやでもジャックのほうがかっこいいけど。

「話聞くっつったって何も言いようがないし」
「ナギさぁん、そこを何とかお願いしますよー」
「(めんどくせ)あー、じゃあもういっそのこと押し倒せば?」
「お、押し倒す…?」
「そ。まぁお前にゃ無理…」
「押し倒してきます!」
「え、ちょ、えぇ?!」

ナギさんの言うことは絶対だ。何て言ったって皆のアイドルなのだから。
リフレを出た私はジャックの居そうな場所を隈無く探す。こういうときだけ勘が働くのかジャックを見つけるのは容易かった。
テラスのベンチに腰を下ろしているジャックの後ろ姿が目に映り、思わず駆け出す。大きな足音に驚きながら振り返るジャックの肩を思いっきり掴んで、全体重をかけてジャックをベンチに押し倒した。

「あいたっ!?え、ちょ、なまえ?!」

ジャックの足はベンチを挟んでいて、私はジャックの腰辺りに乗っている。驚く様もかっこよくて見惚れてしまう。しかし私はふと我に返った。
押し倒したのはいいものの、その先はどうすればいいのだろう?

「…なまえ」
「あ、えと、今日もかっこいいね!」
「ここどこだかわかってるの?」
「て、テラスです。えーと、その、ナギさんに相談してましてね。押し倒せば、と言われたから押し倒してみた」

ジャックの前だと嘘を言えない私は正直に話す。ジャックはそれを聞いて、呆れたのかため息を吐いた。
どうしよう。これ、完全に失敗したかもしれない。

「とりあえず、退こっか」
「えっ」
「ほら、皆びっくりしてるし」
「あっ、はい、お騒がせしてすみません」

ジャックから退いた私は周りの生徒に向かってお辞儀をしながら謝る。そんな中、ジャックの気配がして振り返ると、ジャックが私の手を取って歩き出した。
何が何だかわからずジャックに手を引かれたまま歩く。テラスを出た私とジャックは何故か男子寮に着いた。

「何故に男子寮…?」
「ねぇ」
「は、はい!」
「なまえはなんで僕を押し倒したりしたの?」

ギギギとジャックの顔を見上げると、いつものような笑みを浮かべているジャックと目が合う。押し倒した意味?ナギさんが押し倒せば、と言ったからだ。それ以上も以下もない。
それをジャックに言ったら不機嫌そうに唇を尖らせた。

「結局ナギの言いなりってわけかぁ」
「言いなり、というか、えーと、ジャックのことが好きすぎてどうしたらいいかわかんなくて」
「で、相談した結果、押し倒せば?って言われたの?」
「うん」
「はあ…うーん、どうしようかなぁ」

首を捻るジャックに私は首を傾げる。ふと手を握られているのに気付いて顔が熱くなってきた。繋がれていない方の手で顔を扇いでいるといつの間にかジャックが私を見つめていた。

「なっ、なんでしょうか!」
「…なまえは僕のこと好きなんだっけ」
「大好きです!」
「即答ありがとー。僕もなまえが大好きー」
「うん!」
「僕たち両思いだねぇ」
「うん!…え?」
「なまえは冗談だと思ってたようだけど、僕はいつも本気だったよ?」

そう言って妖艶に笑うジャックを呆然と見上げる。そんな私の頬を、繋がれていない方の手で優しく撫でられた。その触り方が妙に艶めかしくて胸が高鳴る。

「両思いなら僕もなまえを押し倒してもいいよねぇ?」
「えっ」
「僕さぁ、これでも結構我慢してたんだよ」
「ジャッ…」

名前をいう前に口を塞がれる。唇に柔らかいものが当たって、すぐ離れる。私の目に映るジャックは、見たことがないくらいかっこよくて、色っぽかった。