短編 | ナノ

モンスター生態調査




〜モンスターの生態調査3〜

※0組が候補生になる前のお話。
※あなたは0組のお世話係。
※呼び名は「先生」


「はい、こんばんはー。みんな元気かなー?」
「消灯時間5分前に召集をかけるなんて非常識極まりないですよ」
「まぁまぁ、候補生になったらいつ呼び出されるかわからないんだから、これくらい我慢なさいな」
「シンクが半分寝てまーす」
「シンクちゃーん。起きてー。まぁいっか、完全に寝ちゃったらトレイよろしくね」
「私に責任を押し付けないでください」
「じゃあ明日の予定を発表しまーす」

トレイの言葉を無視して話を進める。呆れたトレイは溜め息を吐いた。
半分寝ているのはシンクとジャックで、後の皆は眠たい目を擦りながらもなんとか意識を保っている。そんな中、何故かナインだけが目を爛爛とさせていた。

「やけにテンション高いね。どったのナイン」
「おう!消灯時間になっても起きていられんのってテンション上がらねぇ?!」
「ナインだけ旅行に行ってるのかな」
「ナインは消灯時間になったらすぐ寝ていたから、こういう非常識なことには敏感なんだ」
「エイトにも非常識って言われた。慰めてサイスー」
「さっさと話を進めろ。あたしも眠いんだよ」
「私の部屋来る?」
「死にたいのか?」
「僕が行くよぉー」
「却下」
「即答されたぁ」
「いいから早く進めろって…」

エースが溜め息を吐きながら彼女に言う。彼女は「はいはい」と言いながら、四枚の紙を取り出した。その紙には台形が描かれている。そしてカラメルらしき線も入っていた。怪訝な面持ちをする彼らに、彼女は口を開いた。

「これはあるモンスターです」
「え?これモンスターなの?」
「お菓子のプリンみたいな形してるけど」
「そう!ケイトその通り!」
「は?どういうことだ?」
「このモンスターは"プリン"というモンスターなのです!」

得意気な顔でいう彼女に彼らは眉をひそめる。その絵はモンスターとは言い難く、お菓子のプリンにしか見えなかった。唯一違うところと言えば、そのプリンの色が赤色、水色、黄色、青色と分かれていることくらいだ。

「こいつらはプリンっていって、おいしそうな名前してる割りに結構怖い顔してて、動きもキモいんだよ」
「絵心ありませんね」
「今はそんなことどうでもいいでしょトレイ」
「もっと絵の勉強したらどうでしょう」
「辛辣だな!が、頑張るよこの次は!で!話戻すけど、こいつらの攻撃は"かみつき"、"高速移動攻撃"とたまに範囲攻撃をしてきます。銃弾、衝撃、貫通、切断属性と、体色に応じた属性への耐性が高いから通常攻撃はそんなにダメージを与えることができません」
「では魔法やキルサイトを狙うしかないですね」
「クイーンさん賢い!賢すぎる!でも魔法は魔法でもプリンと同じ色の魔法は相手を回復させるだけだから覚えておいてね」
「プリンの色と異なった魔法で倒せということか」
「なんかめんどくせぇなぁオイ」
「ナインに分かりやすいように説明してあげましょう。まず、赤いプリンには冷気属性魔法、水色っぽいプリンには炎属性魔法、黄色いプリンには炎か冷気属性魔法、青いプリンには雷属性魔法が有効だよ」
「あー…赤色には冷たいので、水色が熱いの、黄色が…?」
「ナインの魔法の覚え方に脱帽した。私にはナインを抱えきれないからあとはトレイに任せるね」
「だから私に責任を押し付けないでください」

その話を聞いて、半分寝ているシンクとジャック以外の彼らの顔つきが変わる。ナインは違う意味で変わってはいたが。
トレイは顎に手を当てながら口を開く。

「先生に言われなくても、書物で何回も見直したのでわかりますが、さすがに実戦しないとどう手を打てばいいかわからないですね」
「トレイが刺々しいのは私の気のせいかな」
「あいつは几帳面だから未だに消灯時間のことを引き摺っているんだろう」
「え、まだ引き摺ってんの?トレイってそんな小さい男だったの?」
「口を慎んだ方が身のためですよ」
「ツツシミマス」

トレイに脅された彼女は口をつぐむ。しかし、そのせいで話が全く進まなかった。痺れをきらしたセブンが呆れたように口を開く。

「お前はいつまで黙ってるんだ」
「………」
「"トレイに慎めと言われたので"。だってさ」
「はあ…なんでマザーはこんな人を私たちの先生にしたのでしょうね…」

紙に文字を書いて皆に見せる彼女に、トレイは深く溜め息を吐いた。彼女はまた紙に何かを書き始め、彼らはそれをじっと待つ。やがて書き終わったのか、満足そうに頷くと彼らに紙を見せた。

「"明日の朝、闘技場で訓練を始めるので朝ご飯を食べたら闘技場に集合"……それくらい口で言った方が早いし」
「では、明日はプリンというモンスターの実戦戦闘ということでいいんですね?」

デュースの問いに彼女は首を何回も縦に振る。律儀にトレイの言うことを聞く彼女を不思議に思いながら、ふとトレイに目を移すと、トレイは何故か勝ち誇ったような表情をしていた。彼らは少しだけ彼女に同情したのだった。



翌朝、朝ご飯を食べ終えた彼らは闘技場へと足を運ぶ。闘技場の扉を開けると闘技場の中心に彼女の姿が目に映った。
彼らが来たことに気付いた彼女は、ニヤリと卑しい笑みを浮かべ手を空にかざす。すると彼女の地面が強く光り始めた。

「なんだ…!?」
「なに、あれ…!」

光りが収まり彼らが目にしたもの、それは大きなモンスターだった。ジャックはそれを見上げて声をあげる。

「うわぁーでっかぁー!」
「黄色のプリンだぁ〜!」
「え、ちょ、アタシら今からこいつの相手すんの?」
「ククルカン、という名のモンスターですね。黄色のモンスターには…」
「よっしゃ俺に任せろ!サンダーだろコラァ!」
「な、ナインさん!モンスターが回復してます!」
「ナインあなたは昨日何を聞いていたのですか!同色の魔法攻撃は相手を回復させてしまうだけですよ!」
「でかい図体だけではないようだな…」
「オレの攻撃が全く効いてないだと…?!」
「いやだから魔法とキルサイトの攻撃以外全く効かないって昨日言ってただろ」
「エイト、お前…」
「…た、試したかっただけだ」
「顔赤いぞ」

サイスの一言にエイトはプリンの背中に向かって走って行ってしまった。相当恥ずかしかったらしい。その速さはチョコボよりも速かった。
彼らはそれぞれ武器を手に取るが、物理攻撃は相手にダメージをほとんど与えられないため、武器を片手に魔法を詠唱する。体が大きい割に、地面に潜り込み相手の場所に移動をし攻撃する行動に彼らは四苦八苦していた。魔法を繰り出そうとするも地面に潜り込み、避けられてしまう。彼らはそれぞれ違う魔法を放っていたため、狙いが全く定まらなかった。
見兼ねた彼女が彼らに向かって声をあげる。

「おーい、そんなにバラバラに魔法放ってたら先に魔力が尽きちゃうよー」
「確かに、このままだと埒があかないな」
「ではこうしましょう!皆さん、ファイアをやめてブリザドを唱えてください!」

トレイの一声に、彼らは頷きブリザドを唱える。それを見た彼女は満足そうに頷いた。



そしてプリンとの死闘を終えた彼らは昼食をとっていた。そこへ彼女がニマニマしながら食堂に入ってくる。

「やぁ皆、お疲れさまー」
「あ〜先生だぁ。珍しいねぇ、訓練前の講義と訓練のとき以外顔見せないのに〜」
「先生ー!僕の隣空いてるよー!」
「今日はみんなよく頑張ったからねー。いいもの持ってきた」
「無視された!」
「いいものってなんだ?」
「じゃーん!」

彼女の手には紙袋が握られていて、なんだなんだと首を傾げる彼らに、彼女は紙袋から何かを取り出した。

「……プリン?」
「そう。プリンに勝ったご褒美に、デザートのプリンを買ってきましたー」
「わぁい!やったぁ〜!」
「たまには気が利くじゃん」
「っしゃあ!プリンだぜー!」
「しかも裏朱雀市場で買ってきた物ですね…」
「裏朱雀市場?そんな市場ありましたか…?」
「裏朱雀市場って噂でしか聞いたことなかったけど…確かひとつひとつの物価が10000ギル単位じゃなかった?」
「え…10000ギル…?」
「先生のどこにそんな金が…?」
「あり得ない気もするが…現に持ってきているしな」
「先生、一応聞いておきますが、そのプリンは本当に先生が買ってきたのですか?」
「失礼だなあんたら!まぁ、たまにはいいかなぁって。ほら、どうぞー」

ひとつひとつプリンを渡していく彼女に、彼らは素直に受け取る。その中でトレイだけプリンを2つ渡された。戸惑うトレイに、彼女は頭を撫でながら口を開く。

「トレイが突破口になったからね」
「え、いや、ですが、皆の力で倒せたわけであって私は何も…」
「ま、いいんじゃねーの。たまには」
「え?」
「ほらあのサイスが言ってるんだから。それに皆にもまた今度買ってきてあげるし、それは私の分ってことで」
「………」
「じゃあ先生、僕と半分こするー?スプーンひとつで」
「却下」
「あはは、即答されたぁ」
「このやりとり何回やるんだよ」

またわいわいと賑わい出す彼らをよそに、トレイは2つのプリンを見て、頬を緩ませるのだった。
(2014/04/01)