短編 | ナノ

モンスター生態調査


〜モンスターの生態調査2〜

※0組が候補生になる前のお話。
※あなたは0組のお世話係。
※呼び名は「先生」


「はい、おはようございます。皆さん調子はどうですかー」

朝ごはんを食べ終えた彼らの元に、あの彼女が眠そうな顔をしながら現れる。自分達に調子はどうですかと言う前にそのだらしない顔をどうにかしてもらいたいものだ、と彼らは思った。

「おはよー先生ー。相変わらずだらしない顔してるねぇー」
「おはよう、ジャック。君も相変わらずだらしない作り笑いして私は君の将来が心配だよー」
「あはは、先生ってば朝からボケないでよねぇー」
「うふふ、ジャックもその胡散臭い笑顔で私に笑わないでくれるかしらー」
「…ジャックと先生って仲悪かったっけ?」
「ジャックは先生と話すときだけ、やたら饒舌になるよな」
「ジャックなりのコミュニケーションかもしれませんね」
「あれがコミュニケーション?全然んな風に見えねぇよ」
「ジャックさん!先生と沢山話したいのはわかりましたから落ち着いてください!先生も、ジャックさんに乗せられないでください!」

デュースの一喝によりジャックと彼女は口を閉じる。クイーンやトレイが宥めるかと思っていたが、まさかデュースが止めるとは思わず彼らは一斉にデュースを見た。
一気に注目を浴びたデュースは恥ずかしそうに顔を俯かせる。そんな中、彼女が気まずそうに口を開いた。

「えー…デュースを怒らせたくないので、ジャックとは金輪際喋りません」
「えっなんで!?」
「と、この話は彼方に置いといて」
「置いとかないでー!」
「今回は前回やったモンスター生態調査第二弾に出掛けたいと思います」
「ちょ、無視?!」
「ジャックは少し黙ってなさい」
「はい…」

彼女はジャックの発言を無視し続け、とうとうトレイに叱られてしまいジャックはしゅんと肩を落として項垂れた。そんなジャックを無視して彼女は続ける。

「今回は【キャッパワイヤ】系を調査します」
「キャッパ、ワイヤ〜?」
「ワイヤーとは違うからね、シンク」
「それは一体どんなモンスターなんだ?」
「うんうん、真面目だねエースくん。真面目な子は先生好きよ」
「僕は先生に好かれたくないです」
「うんうん、ツンデレだよね、わかってるよ」
「えっ!僕は先生に好かれたいよぉー!」
「ジャックは黙ってなさい」
「すみません…」

今度はクイーンに叱られるジャック。エースはエースで心底嫌そうな顔をしていた。そこまで嫌な顔されるなんて先生傷つくぞ、と溢すも「んなこたどうでもいいんだよ」とサイスに一蹴されてしまった。

「全くサイスったら、大丈夫よ。私はサイスのこと好きだからね」
「はぁ?!き、気持ち悪いんだよ!」
「くふふ、そう言いつつ顔が赤いよー?」
「ケイトは黙っとけ!」
「で、【キャッパワイヤ】ってのはどんな奴なんだ」

エイトが溜め息をつきながら彼女に問う。彼女はにやりと口元をあげ、目を細めた。

「触手攻撃…」
「は?」
「キャッパワイヤの攻撃は主に触手攻撃なのよ!捕まったら最後、君たちの身体を隈無くもぞもぞ触りだす…」
「先生、その卑猥な表現は冗談でも言わないでください。この上なく気持ちが悪いです」
「うん、ごめん、クイーン、ごめんなさい。だからその、手に持っているモノを消してください」

クイーンの手には自身の武器が握られていて、クイーンの表情に殺気を感じた彼女はすかさず謝った。
彼女は仕切り直すように咳をすると、話を続ける。

「キャッパワイヤ系にはハンドレッグ同様、三種類がいます」
「先生、前回ハンドレッグに三種類いることを私たちは聞いてません」
「あ、そうだっけ?まぁ、三種類いるということで。えーと、キャッパワイヤという名前のモンスターはトゴレス地方によく現れます。あとの二種類のうち、一匹は【カラタチ】といって蒼龍のほうに生息してて、あとの一匹は【マンドラゴラ】といってロリカ地域に現れまーす」
「先生は頭が良くないとばかり思っていましたが、実は頭は良い方なんですね」
「トレイ君。それは私を褒めてるのかな、それとも貶してるのかな?」
「こいつが頭良いなんてあり得ねぇだろコラァ」
「うん、ナイン君。私はあなたよりははるかに頭良いからね。天と地ほどの差があるからね」

そう言い彼女は哀れみの表情をしながらナインの肩を叩く。ナインはその表情に首を傾げるだけだった。

場所は変わりまして、外局から離れた一角に彼らは移動した。キャッパワイヤはトゴレス地方のモンスターなのだからこんなところにいるわけがない。彼らは怪訝な面持ちで彼女を見つめる。彼女は何やらボソボソと口を動かしていた。
そんな彼女にセブンが話し掛けようと踏み出したその時。

『?!!』

彼女の周りにあるモンスターの姿が数体現れた。驚きながら彼らは慌てて武器を取り出す。そのモンスターは彼女の周りをウロウロしていて、クイーンは慌てて声をあげた。

「せ、先生?!なんですか、これは!」
「え?なにって、これ、マンドラゴラ」
「なんでいきなり現れたんだ?!」
「私が喚び出したんだけど。あれ?まずかった?」
「あんた何者だよ!」
「サイスったら何言ってんの、君たちの先生に決まってるでしょ。はいちゅうもーく。これはマンドラゴラって言って、触手攻撃の他に呪い攻撃もしてきまーす。あぁ、呪い攻撃は与えたダメージ量の半分だけ魔力を減らされるからあんまり呪い攻撃に当たらないほうがいいかも。ちなみにその呪い攻撃の仕方は横回転に突進してくるから、まぁ避けた方が無難かな」
「先生、今まさに横回転で攻撃されてますよ!」
「あれ、おかしいなぁ、私が喚び出したのにね」
「ねぇデュース、アタシデジャヴを感じるんだけど…」
「私もです…」

横回転の攻撃をされまくる彼女に、彼らはデジャヴを感じた。彼女はファイアを唱え、マンドラゴラに向かって放つ。そのファイアはマンドラゴラに当たることなく地面の草を燃やした。

「おいこら触手野郎共。私を狙うたぁいい度胸だ。だがな、私もあの方に怒られたくないんでね、私のためにあいつらをやっつけろ。わかったか?」

スッと目を細める彼女に、マンドラゴラたちは慌てて彼女から離れると、くるりと振り返り彼らに向かって勢いよく突進していく。それを満足そうに彼女が見守るなか、マンドラゴラと彼らの戦いが始まった。



時間にして約10分、マンドラゴラとの死闘を繰り広げた彼らは地面にお尻をつけて息を荒くさせていた。心なしか皆顔を青くさせている。

「触手、攻撃…恐るべし…!」
「なんですかあの感触あああ思い出すだけで気持ち悪い…!」
「クイーンよぉ…お前最後の方ぶっ飛んでて俺殺されかけたぜコラァ…」
「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い」
「さ、サイス、落ち着け。もうモンスターはいないぞ」
「あんな気持ち悪いモンスターなんかともう二度と戦いたくなーい!」
「確かにあんまり戦いたくない相手だったよねぇ〜。シンクちゃんもさすがにあのモンスターには近付きたくないよぉ〜」
「どのモンスターも出来れば近付きたくないですよ…」
「エース、大丈夫か?」
「な、何がだ…?」
「お前震えてるぞ…」
「ねぇ、先生ー、僕のことまだ無視してるのー?」
「はい皆さんお疲れ様でしたー!帰ってゆっくりお風呂でも入ってらっしゃいなー」

その言葉に彼らは重い腰をあげ、重い足取りで外局へと戻っていく。それを見送りながら彼女は、とぼとぼ歩いていくジャックの背中を軽く叩いた。

「お風呂上がりに一杯やろうか?」
「!!」
「あぁ、もちろん牛乳だけどね」
「うん!やる!」
「よし、じゃあ行ってこい!」
「はーい!」

元気よく返事をして走り出すジャックに、ある動物と重なって見えるのだった。

(ジャックって雛チョコボみたいだ…)
(2014/03/01)