短編 | ナノ

モンスター生態調査


〜モンスターの生態調査〜

※0組が候補生になる前のお話。
※あなたは0組のお世話係。
※呼び名は「先生」


「はい、モンスター生態調査を始めまーす。番号!名前でエースから!」
「?いち」
「違う!名前で!」
「はぁ…?エース…って言えばいいのか?」
「そう。じゃ最初から。はい、番号!」
「エース」
「え、え?デュース…?」
「はぁ…トレイ」
「ケイトー」
「シンクちゃーん」
「……サイス」
「セブン」
「エイ、エイト…」
「ナインだぜコラァ!」
「ジャックだよー」
「クイーンです」
「キング」
「はい、良くできましたー。ではモンスター生態調査に出発しまーす」

謎のテンションに彼らは着いていけず一部を除いてげんなりしていた。何故マザーはこの人に自分達のお世話係として任命したのか問いただしたいくらいだ、と一部を除いて思っていた。

「ねぇねぇ、モンスター生態調査ってなぁに〜?」
「その名の通りでーす」
「具体的に何をするんだ?」
「モンスターと戯れようと思って」
「戯れる?あなた、戯れるの意味知っているのですか?」
「やだなぁ、トレイ。いくら私でも意味くらい知ってるよーじゃなきゃこんなこと言わないって」
「わたくしたちにモンスターと遊べと言いたいのですか!?」
「おっとぉ、クイーン近付きすぎ。そんな怖い顔しないでよー、冗談だってー」
「あははー、冗談だって言いながら結構本気で思ってるでしょー」
「さすがジャック、わかってるー」

けらけら笑う彼女に彼らは呆れたように肩を落とす。何故こんな人を自分達の先生にしたんだとマザーに問いただしたいくらい、彼女は剽軽者だった。

ペリシティリウムから少し離れた丘で彼らは自身の武器を手に初めてのモンスターと接触する。そのモンスターは【ハンドレッグ】だった。
ハンドレッグが三体いるなかで彼女は声を高高とあげる。

「はーい注目ー。このモンスターはハンドレッグと言いまーす」
「ちょ、先生!モンスターに背中を向けちゃ」
「わかってる、わかってるよケイト。私なら大丈夫」
「いや、あんた既に毒状態なんだけど」
「わお、サイスありがとう。えーと、キアリーだっけ」
「それドラ○エだ」
「そうだった。エスナー」
「おい、あいつマジで大丈夫かよコラァ」

毒状態からエスナで回復する彼女に、彼らは顔を引きつらせる。彼女はエスナで回復すると、話の続きを再開した。

「ハンドレッグといいまして、遠距離では『毒液』と『突進攻撃』、近距離では『かみつき』、至近距離では『毒液』を使いまーす。まぁ、たいした攻撃力はないけど毒液が厄介だから気を付けること。このモンスターは単体で出てくることはあんまりないでーす。一体一体がよわっちぃからね」
「せ、先生また毒状態ですよ…?」
「そう、気を抜くとすぐ毒状態になるので気を付けてねー」
「…毒状態でよく話を続けられるよな」

エースがそう呟くとエースに同調するように彼らは首を縦に振った。

「はい、じゃあ皆さん頑張ってね。私は座って見てるから」
「わたくしたちが頑張るも何も、先生が狙い打ちされていますが」
「うーん、だね。まぁ弱い奴ほど群れるって言うし」
「それを言うなら弱い奴ほどよく吠える、だろ」
「気にしたら負けだよエースくーん」
「先生、体力大丈夫〜?」
「私を舐めないでくれたまえ!君たちはモンスターだけに集中して…うおわっ!ちょ、ジャックとシンク!私に向かって攻撃するな!」
「え〜、だってモンスターが先生に集中してるんだも〜ん。今がチャンスでしょ〜?」
「そうそう、それにこいつら小さいからなかなか的絞れなくてさぁー」
「いやだからって私を巻き込むなよ!」
「先生、毒状態大丈夫か?」
「エイト!こんなときでも冷静か!先生は感心したよ!」
「毒状態何とかしろよ」
「さ、サイス…私を心配してくれるの…?」
「は、はあ?!ばっかじゃねーの!んなわけねぇだろ!」
「大丈夫、サイス、私はサイスのことわかってるから」
「だからちげーって!」
「なんだサイス、照れてんのかコラァ」
「照れてなんか!」
「あいたっ!ちょ、私マジで集中攻撃されてるんだけど、助けてくれない?いたたっ」
「お前、まだ毒状態だぞ」
「あ、ほんとだ。えーとエスナエスナ…いた、痛いって、えっ、ちょ、集中攻撃されてるせいで詠唱できないんだけど」
「全く、世話の焼ける先生ですね。私に任せてください」
「え!?トレイ!こっちに武器向けないで!」
「大丈夫ですよ。私は狙った獲物は外しませんか」
「あはは、なんかモンスター増えたよぉ〜」
「らっ?!」

シンクがトレイの腕にぶつかる。その衝撃で放たれた矢は一直線に彼女の顔面に向かっていき、彼女の顔がサァと青ざめた。
その矢は彼女に刺さる前に何かによってはたき落とされる。彼女の前にはセブンが立っていた。

「世話の焼ける先生だな」
「セブン…!」
「ぐぉ!おい、毒状態になっちまったじゃねぇか!」
「ナイン!大丈夫ですか!」
「モンスター増えすぎじゃないか?」
「な、何体いるんでしょう?」
「ていうか、こいつら皆先生狙ってない?」
「あははは!先生の回り、虫だらけだよ〜」
「先生大丈夫ですか?!」
「今助けに行く!」
「エイトー、先に毒状態を何とかしなくちゃ体力危ないよぉー」
「あたしには関係ないね」
「いや関係なくはないだろう」
「…………」

わらわらと彼女に群がるハンドレッグに、彼女の頭の中で何かが切れた。その瞬間、辺りが冷気に包まれる。
彼らはハッと彼女を見ると、彼女は薄ら笑いを浮かべていた。それを確認した彼らは瞬時に彼女とハンドレッグから距離をとる。

「ブリザガBOM!!」

その声と共に彼女の回りにいたハンドレッグが一瞬で凍り付いた。彼女は溜め息をつくとそのハンドレッグたちの魂を奪い取る。

「はい。こんな感じで倒しましょうねー」
『………』
「あー疲れた。さ、皆今日はここまでにしてご飯食べに行こうかー」

未だ毒状態のままなのに、にこにこ笑みを浮かべながら歩き出した彼女に、彼らは何故マザーがこの人を自分達の先生にしたのか、再度疑問に思うのだった。

(2014/2/11)