短編 | ナノ

2月22日


2月22日、今日は猫の日である。
それを知ったジャックは院内を走り回っていた。

「あっ、セブン!なまえ見なかった?」
「なまえ?いや、見てないが」
「そっかぁ、ありがとう!」
「あ、おい…」

セブンの制止も虚しく、ジャックは踵を返して走り去っていく。ジャックのその手に握られていたモノを見て、セブンは首を傾げた。

「あんなもの、何に使うんだ?……いや、まさかな…」

セブンは首を横に振り、考えていたことを振り払う。まさかジャックに限ってそんなことはないだろう、と思いながらも内心はなまえに対し同情していた。


セブンと別れたジャックは噴水広場に出て辺りを見渡す。しかしなまえの姿はなく、ジャックは溜め息をついた。そこへエイトがタオルで額を拭きながら現れる。

「ジャック?どうしたんだ?」
「!エイト!ねぇ、なまえ見なかった?」
「なまえ?さぁ…さっきまで闘技場にいたけど結構前に出ていったぞ」
「あぁーすれ違ったかぁ…」
「…で、その手に持っているモノで何をする気だ、ジャック」
「ん?えへへ、内緒!エイト、ありがとー!」
「あ、……あれは間違いなくアレだよな…まさかあいつ」

エイトは眉間に皺を寄せながらジャックの背中を見つめる。アレは間違いなくアレで、自分の考えが正しければなまえに…。そこまで考えたエイトは呆れたように溜め息を吐いて、心の中でなまえの無事を祈ることしかできなかった。


エイトと別れたジャックは滅多に来ないクリスタリウムに足を運ぶ。ジャックの手に持っているものを見て、候補生たちは怪訝な面持ちでジャックを見つめていた。そんなジャックの姿を、本を返しに来ていたクイーンの目に入りジャックに声をかける。

「珍しいですね。ジャックがこんなところにいるなんて…とうとう勉学に励むことを決めたのですね」
「いやいやまさかー。冗談は羅刹だけにしてよねー」
「………」
「ちょ、ここクリスタリウムだからぁ!そんな物騒なもの出さないでよー!あっそうそう、ここになまえ来なかった?」
「なまえさんですか?ここでは見かけていませんが…」
「そっかぁ…うーん、どこ行ったんだろうなぁ」

頭をかくジャックにクイーンはある一点に気付き眉根を寄せる。ジャックの手にある如何わしいモノにクイーンはジャックを睨み付けた。

「それはなんですか、ジャック」
「えっ、これ?見ればわかるでしょー」
「…あなたそれで何をするつもりなんです?」
「ん?ふふふークイーンには教えられないよぉー。じゃあ僕行くねー!ありがとねー!」
「お待ちなさい!ジャック!」

クイーンの声がクリスタリウムに響き渡るなか、ジャックは全力でクイーンから逃げきった。クリスタリウムを出て、ジャックはクイーンに追い付かれないように魔法陣に入り、今度はリフレッシュルームに向かった。


リフレッシュルームに着くと顔を忙しなく動かす。ソファにいる候補生や椅子に座る候補生を見て、ジャックは肩をがっくりと落とした。

「もー…なまえ、どこにいるのさぁ…」
「ん?ジャックじゃん。なんで落ち込んでんの?」
「ケイト!なまえ見なかった!?」
「なまえ?今日はまだ見てないけど…何かあったの?」

ジャックの焦りようにケイトは首を傾げる。ケイトの答えにジャックは項垂れ、そして踵を返し魔法陣に向かった。不思議に思ったケイトがジャックを止める。

「なんか急用なの?アタシも一緒に探そうか?」
「えっ、あ、ううん、大丈夫。僕一人で探すよー」
「でも一人より二人のほうが……ん?」

ケイトはジャックの手に持っているモノに気付き顔を引きつらせた。ケイトに気付かれたジャックは照れ笑いを浮かべている。

「あんた、これだけのためになまえを探してんの?」
「うん!」
「これ、一体誰からもらったのよ…」
「カヅサからだよー」
「あいつから?!ジャック、なまえにそれ付けさせるのやめな!あんな奴が作るものはどれもえげつないって悪評じゃない!」
「……ケイトごめん、僕…理性に負けちゃったんだ」
「ジャック…」

真剣な表情で言うジャックにケイトはドン引きする。こんなことでこいつの真剣な表情なんて見たくなかった、そう思いながらケイトが頭を抱えると、ジャックは隙を見逃さずリフレッシュルームから出ていった。
アタシにあいつを止めることはできない。そう思ったケイトはある人物にCOMMでジャックの悪事を知らせた。


ジャックはリフレッシュルームからチョコボ牧場に移動する。いつもいるはずの朱雀兵の人がいないことに首を傾げていたら、チョコボ牧場の小屋から探し求めていた人物が顔を出した。

「あれ、ジャック?」
「!なまえー!」

その姿を見つけたジャックは一目散に駆け出した。勢いよく走ってくるジャックになまえは顔が引きつる。なまえの目の前に来ると、ジャックはにやにや笑いながら口を開いた。

「なまえ」
「な、なに?」
「今日は何月何日?」
「え?に、2月22日…だけど」
「何の日か知ってる?」
「何の日?今日ってなんかの記念日なの?」
「えへへ、今日はね…」

そう言ってジャックがなまえの頭に手を伸ばしたその時。ジャックの背後から、今一番聞きたくない声が耳に入った。

「ジャックてめぇ、なまえに何しようとしてんだ」
「あ、ナギ」
「げっ…」

ドスの効いた声に今度はジャックが顔を引きつらせる。ナギは何故か息を切らしていて、なまえは怪訝な面持ちで首を傾げた。ジャックはナギが自分達の元に駆け寄ってくる前に、なまえの頭に自分の手に持っていたものを装着させる。

「え?ちょ、いきなりニャにするニャ……ニャ!?」
「?!」
「あ、てめ…!?」

なまえの頭に装着されたもの、それは猫耳だった。装着された瞬間なまえの語尾が猫語になり、ナギとジャックは目を丸くさせる。当の本人は自分から発せられた言葉に愕然としていた。

「ニャ、ニャにこれ?!ジャック、あんたニャにしてくれたニャー!ていうかこれ取れないニャァー!!」
「………」
「………」
「うっ、ちょ、二人揃って顔赤くさせないで欲しいニャ…私まで恥ずかしくニャるニャ…」

顔を赤くさせる二人に、なまえまで顔が赤くなっていく。恥ずかしくなったなまえは顔を俯かせた。ジャックに付けられたものに手を伸ばし外そうとするが、頭ごと引っ張られ外れる気配が全くない。しかしこのまま魔導院に戻るわけにはいかなかった。
悩むなまえを他所にナギとジャックはお互い顔を赤くさせ片手で口元を押さえながらなまえを見つめる。

「…お前これ誰からもらったんだ」
「か、カヅサから…」
「やっぱりあいつかよ……いや、俺今回はジャックを支持するわ」
「ナギに支持されたくないけど…僕もまさかこんなになるなんて思わなかった…猫耳もいいけど猫語になるなんて聞いてなかったし」
「これはこれでアリだよな」
「めちゃくちゃアリだねぇ」
「ニャ、み、見るニャァ…!」
「うわぁ、僕理性が崩壊しそう」
「おい我慢しろ」
「!!?」
「この怯えた様子もかわいいよねぇ」
「あぁ、顔赤くさせて涙目で上目遣いでしかも猫耳に猫語…さすがの俺でもヤバイな」
「ニャ、や、やめてニャ…」

じりじり近寄ってくるジャックとナギになまえは青ざめながら後退る。二人の腕がなまえに伸びようとした瞬間、ある人物の声がチョコボ牧場に響いた。

「ジャックとナギか?珍しいな、お前たちが一緒だなんて…」
「「!?」」
「!え、え、エースー!!」

ジャックとナギに隙ができたのを見逃さずなまえはエースに向かって走り出した。エースはいきなり現れたなまえに驚きながら、なまえを受け止める。

「なまえもいたのか……!?」
「エース…助けてニャ…」

エースを見上げるなまえの姿に、エースは目を見張った。猫耳に猫語、そして何より顔を赤くさせて涙目のなまえにエースは顔に熱が集中する。それを誤魔化すように、ジャックとナギを睨み付けた。

「ジャックにナギはなまえに何をさせたんだ?」
「え、えーっと…」
「ちが、俺はこいつを止めにだな…!」
「んな!?ナギだって途中から目をギラつかせてたくせに!」
「お前なんか最初からギラギラしてただろうが!」
「……なまえ、何があった?」
「と、とにかくカヅサさんの元に行こうニャ!カヅサさんニャらニャんとかしてくれるはずニャ!」
「あ、あぁ、わかった。でもその格好じゃ周りの目を引くからこれで隠しといたほうがいい」

そう言うとエースは自分のマントを外し、なまえの頭に被せる。なまえが「ありがとうニャ…」と呟くと、エースは顔を赤くさせながらなまえの手をとった。

「だいたいなぁ、ジャックはいつもいつもくだらねぇことばっか考えてるからなまえが怯えるんだよ!」
「ナギだってなまえのこと隙あらば触ってるくせに!変態!」
「なっ!?お前に言われたくねぇわ!」

言い合う二人を残し、エースとなまえはカヅサのもとへ向かった。

後日、ジャックとナギは猫耳をつけさせられ皆の注目を浴びながら一日を過ごすのだった。