短編 | ナノ

寝不足の原因について【後編】




ナギはサロンでぐったりしていた。その目にはくっきりと隈ができている。ナギからは不機嫌なオーラが放たれていて、誰一人彼に話しかけようとする猛者はいなかった。そんなナギにある一人の猛者が声をかける。

「おーいナギー…うげ、ここだけ空気重!?」
「…エンラか。何か用?」
「お前か!なにこのオーラ!人ひとり殺せるほど重いぞ?!」
「お前ほど空気読めない奴なら大丈夫だろ」
「ま、俺はそんな柔じゃないからな。ていうかどうした?まさかとうとう振られたとか?」
「それはお前だろ」
「まっまだ振られてねぇよ!告白もしてねぇけどな!」
「威張って言うもんじゃねぇだろ」

ナギは溜め息をつきながら額を押さえる。そんなナギに、エンラはナギの顔を覗き込むと何かに気付いたのか、あっと声をあげた。

「珍しいな、ナギが隈作るなんて」
「あぁ…まぁな」
「…やっぱり振られたのか?」
「振られてねぇって」

可哀想なものを見るように目を向けるエンラに、ナギは顔を歪めてあっちへ行けと追い払う動作をエンラに向ける。エンラはその動作に嫌だと首を横に振った。つくづく空気の読めない奴だとナギは心の中で毒づく。

「仕方ねえ、俺が悩み聞いてやるよ」
「お前に悩み言うくらいならトンベリに聞いてもらうわ」
「俺トンベリ以下かよ?!」
「チョコボ以下だよ」
「チョコボか。チョコボはかわいいよな。さすがにチョコボには敵わねえよ」
「………」

ひとり納得するエンラにナギは顔を引きつらせる。チョコボになら負けても仕方ないって人としてどうなんだ、とナギは思った。うんうん頷くエンラに、ナギは背もたれに体を預け溜め息をつく。悶々するこの気持ちをどう消化しようか考えていた。

「なぁ、マジでどうした?俺でよかったら聞くぜ?」
「…エンラに言ったところでどうにかなるわけじゃねぇしなー」
「今日はやたら攻撃的だなー。そんなんじゃなまえちゃんに嫌われちゃうぞー」
「……はあ」
「お、言う気になったか?」
「お前だから話すけど、いいか。今から言うことは他言無用だからな」
「オーケーオーケー。任せとけ!」

顔を輝かせるエンラにナギは両手を組んで太ももに肘を置く。その様子にエンラは生唾を飲み込んだ。ナギは眉根を寄せて口を開く。

「実は、ここ最近ずっと寝れてないんだ」
「その隈見りゃ想像はつくって。で、寝れなくなった理由は?」
「それがなぁ、ムラムラするんだよ」
「…は?ムラムラ?」
「俺がなまえのことが好きなのはお前も知ってるだろ?」
「お、おう」
「あいつを想うほどムラムラして寝れないんだ。なあ、どうしたらいい?」
「どどどどうしたらいいって…」

狼狽えるエンラにナギはふっと鼻で笑う。見た目に反してエンラは純情な奴だった。ナギの言葉にエンラは頬を紅く染めて唸っている。エンラのこの反応に、ナギは楽しんでいた。

「んなこと言われたってなぁ…」
「ほら、言っただろ。どうにかできるもんじゃねぇって」
「ムラムラか…ナギ、お前変態だったんだな」
「男は皆そうだろ。お前もレムにムラムラしねぇの?」
「れ、レムちゃんに!?俺が?!すす、好きな子にムラムラするわけねぇだろこのど変態野郎!」
「おまっ!んなでけぇ声出すなよ!」

そうナギが言うが時すでに遅し。エンラの大きな声はサロンに響き渡った。ハッと我に返るエンラに、ナギは青筋を浮き立たせ指を鳴らしエンラに詰め寄る。エンラはナギから逃げようと後ずさるが、そういえばソファに座っていたんだったと気付きサァと顔が青くなった。

その日を境にナギがど変態野郎だと噂されることとなり、なまえの耳に入るのに時間はかからなかった。


不眠症患者Bの場合(彼女のことを想うとムラムラして、)