短編 | ナノ

寝不足の原因について【前編】




なまえは最近眠れない夜が続いていた。なまえの目の下にはくっきり隈ができている。そんな彼女はリフレッシュルームで一人項垂れていた。そこへ、一人の候補生が彼女に気付き声をかける。彼女はその候補生の声に、ピクリと体が反応した。

「あらー、なまえじゃなーい!どうしたのよこんなところで項垂れて」
「か、カルラ…?」
「…うっわ、何よその酷い顔。その辺のモンスターもびびって逃げ出しそうな顔してるわよ」
「ひ、ひどい…」

カルラの言葉になまえは泣きそうな顔になる。悪気がないにしろ、その発言にはなまえでも傷付いた。だらんと腕を下げて、カウンターの上に頭だけを預ける。その姿にカルラは顔を引きつらせた。

「ほんとどうしたのよ?なまえってそんな隈作るほど繊細だったかしら」
「私をなんだと思ってるのさ…」
「繊細だとは思ってなかったけど…それにしてもこの顔は酷いわ。相当悩んでるのね」

カルラはなまえの隣に座って頬杖をつく。なまえは瞼が重いのか、目がこれほどなく細くなっていた。どうしてこんなことになっているのか、とカルラは不思議に思いなまえに問いかける。

「寝不足の原因は?」
「…そ、それが…なんか胸が、痛くて…」
「胸が痛い…?」

胸が痛いと言うなまえに、カルラは眉を寄せる。それが本当なら今すぐにでも治療室へ行ったほうがいい、そうカルラが促すもなまえは首を横に振った。

「もう行ったけど、異常はないって」
「そうなの!?」
「うん…なんでだろう。私、もうダメなのかな…」

目に涙を浮かべるなまえに、カルラは困惑するしかなかった。とにかく、異常がないと言われたのなら体は大丈夫なのだろう。まずは、胸が痛くなった原因を解明しなければならない。カルラはなまえを慰めつつ、胸が痛くなり始めた時期を聞いた。

「いつから、だったかな…なんか気付いたら痛くなってた」
「その辺もう少しこと細かく教えてくれない?」
「こと細かくって言われたって…本当に気付いたら痛くなってたんだよー」
「何か、胸が痛くなるような事件ってなかったの?」
「事件…?」

なまえは首を傾げて考える。そして、何かを思い出したのか、徐々に頬が紅く染まり始めた。思いもよらない反応に、カルラは目を丸くさせる。

「そ、そういえば」
「そういえば?」
「な、ナギに、頭撫でられた…」
「はあ?」

ナギの名前に今度はカルラが首を傾げる。どうしてそこでナギの名前が出てくるのかとなまえを怪訝な表情で見つめていると、恥ずかしくなったのかなまえは手で顔を覆った。

「…ちょっと意味がわからないんだけど」
「うん、私も意味わかんない」
「つまり、ナギに頭撫でられた後から胸が痛くなり始めたの?」
「そう…私、もしかしてナギに何かされたのかな!?」

赤面から顔面蒼白になるなまえに、カルラは溜め息をつく。なまえの胸が痛くなる事件は、カルラの中で答えが出た。それはつまり、そういうことだろう。本人は自覚していないらしい。だからといって、本人に言ったところで否定するのが目に見えている。項垂れるなまえにカルラは吐き出すように呟いた。

「馬鹿らし…」
「ばっ、カルラ酷い!真剣な悩みなのに!」
「はいはい、ま、一生悩んでることね」
「カルラの薄情者!」


不眠症患者Aの場合(彼のことを想うと胸が痛くて、)