短編 | ナノ

仮装は鼻眼鏡




10月31日。
今日は言わずもがなハロウィンである。
お菓子をくれなきゃイタズラするぞ、の有名な日だ。そういうイベントには必ず沸いて出てくる。
お菓子をくれなきゃイタズラするぞ、と言う人が。



「ハロウィンだ!」

目が覚めてカレンダーを見たなまえは開口一番そう言った。精神年齢が低いと周りから言われている彼女は目を輝かせる。周りの期待は裏切らないらしい。

「こういう日はお菓子を貰いに行くに限る!」

大きな声で独り言を喋る彼女はイベント事が大好きで、年に何回かあるイベントには必ず参加し、周りに迷惑をかけていた。そんな彼女は12組に所属していて、周りからも特に痛い目で見られていた。
着替えようとしたなまえはクローゼットの前で悩み始める。

「ハロウィンだからいつもの制服じゃ締まらないよね…」

どこまでもイベント脳だった。
暫く悩んでいたなまえは真っ黒い服を身に纏い、鏡の前で唸りながらうろついていた。

「…これじゃ仮装にならないかなー」

真っ黒い服を着て鏡の前でくるくると回る。
そして何か思い付いたのかなまえはクローゼットの中を漁り始めた。

「これいいかも」

その手にはある物が握られていた。





真っ黒な帽子も身に付け、部屋を出る。なまえは誰から貰いに行こうか考える。宛てもなく廊下を歩いていたときだった。

「あ、あれは…」

目を細くさせて後ろ姿を凝視する。朱のマントをヒラヒラさせるその姿になまえは口許を上げた。
足音を立てないように背後に近寄る。そして空気を吸って大きな声をあげた。

「トリックオア、トリート!」
「わっ!?」

突然現れ大きな声をあげられたエースは肩が大きく跳ね、前のめりになる。なまえはそんなエースに小さく笑った。

「いきなり何するんだなまえ!…なんだその格好」
「ふふん。今日はハロウィンだよ!」
「ああ、今日ハロウィンだっけ…で、その格好?」
「うん!」
「…さすがにそれはないと思う」
「え!?」

エースは腕を組み、なまえの格好にダメ出しをする。エースにそう言われたなまえはあんぐりとさせた。

「宴会じゃないんだから鼻眼鏡はやめたほうがいいよ」
「…これしかなかったから」
「うん、そうだと思った。でもそのチョイスはないな。あとその黒い服はなに?なんの仮装のつもり?」
「ま、真っ黒星人…」
「ハロウィンなのに?…他にも魔女とかあっただろ」
「面白味にかけるかなって」
「ハロウィンの日なのにハロウィンから脱線してどうするのさ」

呆れながら言うエースになまえはしゅんと項垂れる。まるで妹を叱る兄のようだった。

「僕からはそれくらいかな」
「うぅ…」
「じゃあ僕は行くから。あ、あとこれ」

そう言いながらエースが差し出したのは何かの袋。なまえは差し出された袋に目を見開きエースを見上げた。
エースは爽やかな笑みを浮かべて口を開く。

「イタズラされたくないからな」
「エースありがとう!」

その袋を受け取ったなまえはエースに手を振ってその場を後にする。
なまえの背中を見送ったエースは顎に手を当てて呟いた。

「チョコボのお菓子って人間も食べられるっけ…」

まぁ大丈夫だろう、そう思ったエースはチョコボ牧場へ向かって再び歩き出した。