「……………」
「今日のナインさんとても静かですね…」
「ああ、昨日からずっとああなんだ。体調悪いのか聞いても上の空で返事もしないんだ」
「そうなんですか…ナインさんに何があったんでしょうか…」
「ナイン、オリエンスの4大国を言ってみろ」
「……………」
「ナイン?ナイン!」
「…………あ?」
「当てられてるよ!」
「…………ああ、」
「…………」
「…はぁ、ダメだこりゃ」
ケイトはため息をつく。
エースとデュースは顔を見合わせた。
ナインの身に一体何が起こったというのだろうか。
喧嘩っ早いところと威勢の良いところだけが取り柄のナインが、どうして上の空なのだろう。
0組の誰もが首を傾げてナインを見つめる。
ナインはどこか遠くの方をずっと見ているのだった。
ある日、トレイとナインがこそこそとサロンの一番端にあるソファに、何やら深刻そうな面持ちで座っていた。
見かねたエースがトレイとナインに話しかけた。
「2人して何をこそこそと喋ってるんだ?」
「!エ、エース…」
「おや、これは都合が良い」
「?都合が良い?」
トレイが口を開こうとすると、ナインがあああー!と叫び出した。
「てめっ、トレイ!」
「まぁまぁ、いいじゃないですか。知っている人が多いと心強いですし」
「知っている人が多いと心強い?」
「そ、それはそうだけどよ…」
「エース、彼には想い人ができたようなのです」
「想い……人?」
エースはナインを凝視すると、ナインは笑うなら笑えよコラァと照れ臭そうに頭をかいた。
いつもと全く違うナインにエースは興味津々に眺める。
「?何見てんだよコラァ」
「いや…いつもと全く違うナインが珍しくてな」
「ちっ!笑ってくれたほうがマシだっつぅの!」
ぷい、と小さな子どもっぽく顔を背けるナインに自然と笑みが溢れた。
「それで?ナインの想い人ってどんな人なんだ?」
「お、おい!そんなんどうでもいいだろが!」
「どうでもいいわけないじゃないか。何か手伝えることはないかと思って」
「よ、余計なお世話だコラァ!」
「本当は嬉しいんでしょう」
「っ!」
今度は顔を真っ赤にさせるナインにトレイは全く素直じゃありませんね、と呟いた。
「彼女は4組で、ナインとはたまたまクリスタリウムでぶつかったのがきっかけです」
「ああ…だから最近よくクリスタリウムに足を運んでるのか」
「!み、見て…!?」
「いや、想い人がいるなんて知らなかった……だけど、そういう理由があったのか」
「ナインはぶつかった拍子に、所謂一目惚れをしたらしいですよ」
「だああああー!お、俺便所行ってくるぜコラァ!」
「あ、逃げましたね」
「そんなに恥ずかしかったのか」
物凄い速さで2人の前から消えたナイン。
それくらい恥ずかしいのだろう。
自分がまさか一目惚れするなんて。
「その彼女とはどうなんだ?」
「まぁ…ナインがしどろもどろしてますが、なんとか会話は成立してるようですよ」
「…そうなのか。成就するといいな」
「ええ…」
「また僕にも何か手伝うことあったら言ってくれ」
「わかりました。あ、このことは他言無用でお願いしますね。私もナインから土下座されてまで言わないでくれ、と言われましたから」
「はは、わかった」
そう言うとトレイはではまた、といいサロンから出ていった。
土下座してまでも皆に内緒にしておきたいのか。
ナインの様子のおかしさはもう皆気付いているし、ナインに想い人がいるとわかるのも時間の問題だな、と微笑むエースだった。
続く