短編 | ナノ

焦がれるだけの恋はもうやめた




「…はぁ」


今日何度目かわからない溜め息をつく。なまえの視線の先には、ナギが女の子と楽しそうに喋っている姿だった。女の子が笑う度に胸が苦しくなる。ナギが笑う度にもっと胸が苦しくなる。


「………はぁ」


恋というものはこんなにも苦しいものだったなんて。
柄にもなくそう思ったなまえは視線を落とし顔を伏せた。


「全く溜め息ばっかり、幸せ逃げるわよー?」
「…カルラ…」


顔を横に向けるとカルラが呆れた顔をして立っていた。私に幸せなんて来ないよ、と呟きまた顔を伏せればカルラはふぅと一息つきナギに視線を向けながら口を開いた。


「そんなにナギが好き?」
「えっ?!」
「…愚問だったようね」


カルラの言葉になまえはすぐ反応して、しかもさっきよりも顔が赤くなっている。それだけで赤くなるなんて重症ね、と冗談ぽく言えばなまえは恥ずかしかったのか顔を俯かせた。


「ナギも本当八方美人よねー。女子たちにあんなに愛想振り撒いて」
「……ナギは人気者だもん」
「そうかもしれないけど…、……好きな子にアタックできないあいつも相当臆病者ね…」
「え?」
「あぁ何でもない」


独り言のように呟いたカルラの最後の言葉を、なまえは聞こえなかったらしくカルラに聞き返す。カルラは首を横に振り、話題を逸らすようになまえに問いかけた。


「なまえは話しかけに行かないの?」
「話し?!む、無理無理!ナギに話しかけるなんて恥ずかしくて無理!」
「……あのねぇ、そんな消極的でもしナギに彼女とかできたらどうするの」
「か、彼女…」


そう呟くとなまえはしばらく黙り込む。ナギに彼女ができたことを想像したのか頭を抱えて項垂れた。


「勇気出しなさいよ。あいつもきっとなまえが話しかけに来てくれるの待ってるんじゃない?」
「…待ってるわけ、ないよ…」
「じゃー彼女ができても良いわけね?」
「うっ…そ、それはイヤだ…」


カルラは責めるようになまえに言い聞かせる。こうでもしなきゃ行動しないのだとわかっているのだ。長年友達だからなまえのことは手にとるようにわかる。
さっきからウンウン唸っているなまえにカルラは仕方ない、と呟いた。


「私がキューピットになってあげる」
「きゅ、キューピット?!い、いいよ、そんな!」
「あんたら見てると焦れったくてしょうがないのよね」
「え、焦れっ…うわっ」


カルラはなまえの腕を掴み立たせる。そして引っ張りながら歩いていくその先はナギがいる方向だった。なまえは慌ててカルラから逃れようとするが、どこにそんな力があるのかなかなか腕を解くことができない。


「か、カルラー!」
「観念しなさい!」


泣き言を言うなまえにカルラはピシッと言い返した。



一方ナギは女の子と話している最中、ふと視線をなまえに向けようとして目線を動かしたとき。カルラがなまえの腕を掴みこちらにズンズン向かってくる姿を捉えた。
は?とポカンと口を開くナギに女の子も視線をそちらに向ける。


「あれ、カルラじゃない」
「どうもごきげんよう。ちょっとナギ借りてもいいかしら?」


ナギたちのそばに着くなり、カルラはにこやかな顔で女の子にそう言うと女の子はタジタジになりながら了承してくれた。そしてナギの腕を掴むなりまた歩き出した。


「お、おい、何だよカルラ!」
「いいから黙って大人しく着いてきなさい」
「はぁ?」


カルラに腕を引っ張りながらなまえに視線を向けると、なまえもナギを見ていたのかカチッと目が合ってしまった。なまえは慌てて顔を逸らし恥ずかしそうに掴まれていない片手で顔を覆う。その様子にナギも気まずそうに顔を逸らした。


「ほら、着いたわよ」


そう言うとカルラは二人の腕を離した。着いた先は見渡しのいいテラスで、しかも三人以外誰もいなかった。


「じゃ、後はお二人でごゆっくりー」
「え、ちょ、カルラ!」
「は?!何だよそれ…」


本当は盗み聞きしたかったけれど、と名残惜しくなるカルラだったが二人のことを思いテラスを後にするのだった。








後日話を聞いたところ、なまえから意外な一言が飛び出した。


「焦がれるだけの恋はもうやめた!」
「え?」
「これからは積極的に頑張る!ありがとう、カルラ!」


そう言うとなまえはナギの元へ走って行った。ナギもなまえが来るのを待っていたらしく、二人は仲良く教室から出ていく。
あのテラスで何があったかは知らないが、なまえの幸せそうな顔を見てカルラはフッと笑みを浮かべた。


「…世話の焼ける奴らね」


後でナギからお礼を貰わなきゃ、そう思いながらカルラも教室を出ていくのだった。


(2012/9/15)