短編 | ナノ

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あれからナギは事あるごとに自分の前に現れるようになった。まるで何かを探っているみたいに。自分は今まで通り、普通の候補生を演じているがそろそろ限界な気がする。アイツが何かを察して、自分を監視しているのがわかったからだ。


「よ、今日もクリスタリウムかよ」
「…任務じゃなかったの?」
「おう、そうだったけど速攻終わらせてきた」
「そんなに急ぐこと?」
「あぁ、お前に早く会いたくてな」


はぁ?と唖然としてナギを見れば、パチンとウィンクをかましてきた。こいつの行動はいちいち癪に触る。自分を疑っているのは間違いないだろう。それなのにどうしてこう変なことばかり言うのだろうか。


「ほんと、ナギって意味わかんない」
「俺も、お前のことよくわかんねぇ」
「……どういう意味?」
「そういう意味」


ニヒルな笑みを浮かべて意味深なことを言うナギに、自然と本をめくる手が止まってしまう。何が言いたいのだろう。こいつの考えていることが全くわからない。いや、わかろうとも思わないが。
ゆっくりとナギに視線を移すと、ナギは真っ直ぐ自分を見つめていて思わず心臓が飛び跳ねる。


「なっ、なに?」
「…あのさ」
「………」
「俺と、付き合わねぇ?」
「………は?」


今こいつは何と言った?付き合わねぇ?どこに?誰が?どういうこと?これも作戦か何かの策?
頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされ、ナギの言っている意味が未だ理解できない。固まる自分にナギはいきなり両手を握ってきて、ハッと我に返る。


「なぁ、俺ならお前のこと大事にするぜ?」
「なっななな、何を言ってんのかあんたわかってんの!?」
「当たり前だろ。そうじゃなきゃこんなこと言わねぇよ」
「ああアホじゃないの!?」


ギュウと握り締められてる両手をほどこうとするがなかなか離してくれない。段々と顔が火照ってきて、手汗までも出てきそうで焦ってきた。


「返事は?」
「はぁ?!い、いきなり言われてもそんな急には…」
「いいだろ?…それとも何、付き合えない理由があるとか?」
「…っ!」


両手をグッと自分のほうに引き寄せて距離を縮めてくる。今の言葉に、一層頭に血が昇る。間近にあるナギの顔からそらせない自分がいて、それが何故なのかわからなかった。
とにかくこの状況から逃れたくて、とうとう根負けしてしまった。


「わかった、わかったから…」
「よし、じゃあ今日からお前は俺の彼女だからな!」


この場合、こうしなければナギから逃げられないとわかった自分は、承諾の返事をするしかなかった。別に正式に彼女だなんてなる気はない。自分には心に決めた人がいるのだから。
そう言い聞かせるも、ナギの嬉しそうな顔を見て少しだけ胸が高鳴るが気付かない振りをした。




(2012/7/12)