短編 | ナノ

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今日もクリスタリウムで読書という名の情報入手に励む。それが自分が課せられた任務だ。その意味を知っているのは自分だけ。
奴らに見つかるわけがないし、見つけられるわけがないと思った。完璧に隠し通せる自信もあった。

しかし、この男だけは違った。


「なんだ、お前また1人か」
「……悪い?」
「いや悪くはねぇけどよ」


最近自分にまとわりついてくる男がいる。自称みんなのアイドル、ナギ・ミナツチという男だ。自己紹介されたとき、どこがアイドルなんだと思った。
そんな男がどうして自分にまとわりついてくるのか、理由が思い付かない。こいつは諜報部でかなり腕がたつらしく、自分の故郷でも有名だ。まとわりつかれたら最期。そんなことさえも言われている。


「お前友達つくんねぇの?」
「あんたには関係ないでしょ」
「関係ねぇかもしれねぇけど、俺はお前のために言ってるんだぜ?」
「…意味わかんない」


自分のためだと言うナギはハァ、と溜め息をつき隣の席に腰をかけてきた。マジでなんなのこいつ、さっさと任務にでもどこにでも行けば良いのに。



「………」
「………」
「……そんなん見て面白いか?」
「面白いよ。魔法が使えない私にとってはすごくタメになる」


自分はわけあって魔法が使えない。それなのに上の奴らは自分の俊敏さを買ってくれ、こうして候補生にさせてくれた。そこは感謝すべきだろう。自分を候補生にした上の奴らは、自分で自分の首を絞めていることに気付いていない様子で、馬鹿な奴らだと思った。
自分の今読んでいる本には朱雀で契約されている軍神の情報が記されている。それを見た候補生はお前バハムート隊にでも行くの?と思うだろう。そう、思うだけでなにも言われない。むしろなにも言われないほうが都合が良かった。


「変なやつ」
「褒め言葉をどうもありがとう」


これ以上こいつと居たら情報を暗記できない。そう感じた自分は読んでいる途中の本を閉じて席を立つ。ナギは頬杖をついて自分を見上げた。


「あんたが居ちゃ集中できないから部屋帰る」
「お前さ、何を知りたいわけ?」
「……まだ候補生になって日が浅い私は、色んなことを勉強して覚えなくちゃいけない。そんなことくらい、あんたもわかるでしょ」
「…何のために?」
「……朱雀のためだよ」


一瞬、ギラリとナギの目が鋭くなった気がした。本を抱えナギから逃げるように踵を返す。あの一瞬の殺気に、背筋が凍った。なんだ、なんなんだアイツは。
クリスタリウムを足早に出ていく自分を、ナギがいつまでも見つめていたことなど知るよしもなかった。








(2012/7/12)

続きます。