短編 | ナノ

キングと尻(5)




あれからあっという間に1週間が経った。いつもなら長く感じる1週間がこんなにも短く感じてしまうのはきっとアイツに会わなかったからだろう。いつもうるさいアイツに会わず1週間を平和に過ごせたというのに、何故か物足りないと感じたのは気のせいだ。そう思いたい。



「キングー」
「なんだ?」
「あのさぁ、最近なまえのこと見かけないんだけどキング知らない?」
「…いや、俺も見ていない」
「あっれー?なまえ、部屋にもいなかったし…どこ行っちゃったんだろ」



俺に聞いてもわかるはずがないのにこの1週間、ケイトはずっと俺になまえのことを聞いてきた。あいつは確かに暇さえあれば自分にまとわりついていたが、あいつから来ないのは今までになかったため自分も少なからず驚いている。表面には出さないが。それにしても、1週間もケイトの前に現れないなんておかしい。



「ケイト…ちょっと。ムツキから聞いたんだが」



首を傾げるケイトのもとに、険しい面持ちをしたセブンが手招きしてケイトを呼び出す。それを横目に、外窓へ視線移す。



「えぇ!?それマジ?!」
「あぁ、ムツキがそう言っていた」



ケイトの驚いた声が教室内に響く。それを聞いたジャックやナイン、エースが二人に振り返る。そんな中、クイーンが二人に近付き眼鏡をあげてどうかしたのですか?と問い掛けていた。自然と視線が三人に釘付けになる。



「なまえが…?何かの間違いでは?」
「だったらいいんだけどな…」
「そういえば、あの任務に出てるのってトレイとデュースとシンクとエイトだっけ?」
「あぁ」
「じゃあ連絡取ってみたほうがいいかも!もしかしたら何か手掛かりがあるかもしれないし」
「何があったんだ」



なまえの名前が出た瞬間、体が勝手に動いていた。俺が話し掛けてきたことに驚く三人の他に、エース、ナイン、ジャックも集まってきた。



「キング…」
「あいつに何かあったのか?」
「…それが」
「セブン!ちょい待ち!」



セブンの言葉を遮るケイトに、セブンは首を傾げる。早く言え、そう言いたかったのを抑えて、ケイトへ視線を移すと、ケイトは口元をあげて俺を見ていた。なんだ、その怪しい笑みは。



「キング、なまえのことそんなに気になるの?」
「!」
「おいケイト、焦らしてねぇでさっさと言えよコラァ!」
「ナーイン!ちょっと黙ってようねぇ」
「ふごっ?!」



ケイトに反論するナインの口をジャックが両手で塞ぐ。鼻まで塞いでるのを見かねたエースが、ジャックに「鼻まで塞いでるぞ」とたしなめていた。ジャックは悪びれることなく、ナインの口だけを塞ぐ。



「ケイト?何を言うつもりなのですか」
「クイーンも、ちょっと待ってって。キングってさぁ、なまえのこと煩わしいんじゃなかったの?」
「煩わしい…?」
「確かにさ、なまえはお尻のことばっかりだけど、でも、キングのことも考えてるわけよ」
「俺のことを?」
「考えてるっていうか、気になってると言ったほうが正しいかなー…ま、とにかく、キングのことをなまえはお尻だけじゃないって言いたいのよアタシは」
「…話が見えないんだが」



俺のことをお尻だけじゃないってどういうことだ。ケイトの言ってる意味がいまいち理解できない。確かに今回の武器のことは俺のことを考えてくれたが、それはそれ、これはこれだ。武器以外で、俺のことを考えていたのか?あのなまえが?俺の尻以外で?
頭の中で混乱していると、ケイトは頭を押さえながら溜め息をついた。



「鈍いわねー!だからなまえはアンタのことが好きだってアタシは言いたいのよ!」
「?!」
「えっ!?」
「それは本当か?」
「はごぁあ!」
「うわぁ!ナイン汚いー!」



ケイトの言葉に衝撃が走る。尻が好きだと言われたのはあるが、まさか俺自身を好きだとは微塵にも思わなかった。
呆然としている俺を他所に、セブンが顎に手を当てて誰かと話をしていた。



「…そうか、容態は?」
「?セブン、誰と話しているんだ?」
「デュースだ。今、メロエの街で12組の候補生と一緒にいるらしい」
「え?12組って…まさか…」



ジャックの言葉にセブンは顔を俯かせる。なまえも確か12組だったはず。セブンが言っていた「容態は?」ってまさか…。いや、そんなはずがあるわけない。でも武器に特注のものを使うと言っていた。何かは教えられていないが、危険なものだと考えなかった。
もし、それが危険なものだったら?俺に教えなかったのは、危険だと断られると思ったからか?

俺は居てもたってもいられず、教室を飛び出した。