短編 | ナノ

キスマークはすぐに消えるから





※がっつり死ネタです。
見たくない人はプラウザバック推奨。















第一次ジュデッカ会戦がようやく終焉を迎えようとしていた。ビッグブリッジにてセツナ卿が秘匿大軍神を喚び、皇国を圧倒。蒼龍のほうもシュユ卿や候補生たちの活躍のお陰で、朱雀は負け戦に等しい戦争から勝利を勝ち取った。あちこちでたくさんの歓喜が沸き上がるなか、私はセツナ卿が秘匿大軍神を召喚した場所へと何故か向かっていた。


「………」


その場所へ着けば辺りにはたくさんの候補生の無惨な姿。一人一人、顔を確認していくけど誰一人名前を思い出すことはできない。私は一人一人に、ゆっくりお休み、と声を言いながら祈りを捧げる。今私にできることはこんなことくらいしかない。
ふと、候補生の中に一人だけ制服ではない服を着ている人がいた。私は何故か慌ててその人へと駆け寄る。心臓がバクバクとうるさい。
その人に駆け寄り、冷たくなった身体を起こし顔を覗きこむ。


「…この人…」


顔を見た途端、私の頭の中にこの人との記憶が鮮明に蘇ってきた。





『どうして君はいっつも仏頂面なの?』
『…関係ないだろう』
『関係大アリ!私は    君の笑顔が見たいの!』
『………』
『あっ、無視するな!』


『心配?』
『……何がだ』
『あの子たち』
『………』
『素直じゃないなぁ、    君は。よし、私もいっちょあのハゲに頭を下げてくる』
『お前がそこまでする必要はない、余計なことをするな』
『そんな寂しそうな顔してる    君を放っておくほど、私はできてないよ。それに私が見たいのは    君の笑顔だからさ』
『…お前はなんなんだ一体』
『私?言うなれば、    君だけのスーパーマン!なんちゃって…ちょ、冗談だから!ブリザドしまって!』


『あははー、ダメだった!…あのハゲいつかシメてやる』
『…お前はどうしてそこまで私に構うんだ』
『だから何回も言ってるけど    君の笑顔が見たいからだってば!    君に笑ってほしいから』
『……お前、馬鹿だろう』
『ばっ…!?    君に言われたくないもんね!』


『…聞いていたのか』
『聞いちゃ悪い?』
『……すまない』
『…何に対して謝ってるわけ?さてと、これからハゲをとっちめに行ってやる。    君も手伝って』
『…お前にはいつも助けられていた』
『はぁ?ちょっと、そんなこと言う暇あったらあのハゲの毛を全部むしりとる良い作戦考えてよ』
『その威勢のいいところも、もう見れなくなるんだな』
『いや何言ってんの?    君頭打った?やめてよ、まるで最期の言葉みたいで気持ち悪い』
『…できるならお前と共に生きていたかった』
『……やめてってば。なにそれプロポーズ?プロポーズにしちゃ、物騒な台詞だね。あはは、    君がそんな冗談言うなんて意外すぎ!』
『…本当にすまない』
『……………あっ、謝るくらいなら今さらそんなこと言うな!…何よ一人だけ勝手なことばっかり言って!わ、私だってできるなら    君とずっと、ずっと生きていたい、傍に居たいよ!なのに、どうして今さら…っ    君の馬鹿!』
『なまえ……』
『やっ、やだ、やだよ…    君、行っちゃ嫌だよ…!』


『…どうしても行くの…?』
『……あぁ』
『…っ、いか、ないで…』
『…そういえばまだ言ってなかったな…』
『え…?』
『なまえ……愛している、これからもずっと』





「……うっ…あ…」


鮮明に映し出された記憶。目の前の、この人との記憶。今までこの人と過ごしてきた記憶。私を置き去りに消えていったこの人は、私にとってかけがえのない大切な大切な人だった。
冷たくなった身体に抱き着くと、涙がその人の身体に溢れ落ちる。抱き締める力を強めると、ふと地面に何かが転がった。涙で視界がぼやけているなかそれを拾うと、それは名前が書かれたこの人のノーウィングタグだった。涙を拭いて、そのノーウィングタグの名前を読み上げる。


「…っクラサメ・スサヤ…!クラサメ、君…!」


名前を読み上げると、また涙が溢れて前が見えなくなった。


















気付けばいつの間にか私は自室で寝ていて、見慣れた天井を見ると慌てて起き上がった。


「うわぁ!?と、突然起きないでくださいよ」
「…ナギ…?私、どうしてここに…?」
「なまえさん、ビッグブリッジのところで気を失ってたんすよ。覚えてないんすか?」
「ビッグブリッジ…?」


はて、私はどうしてビッグブリッジに行ったのだろう?思い出そうとするが全く思い出せない。むしろ何のために行ったのかさえ覚えていなかった。そうナギに伝えると、頭打ったんスかと呆れた顔をして返された。


「失礼だな、頭痛くないから打っては、いないはず…」
「まぁそれならいいんすけど。あ、そういえばその首元、内出血できてますけどなんかあったんすか?」
「首元?内出血?」


意味がわからない、と言った感じに言い直すとナギは机にあった鏡をわざわざ私の目の前まで持ってきてくれた。ありがと、とお礼を言いその鏡を覗きこむと、確かに首元には内出血が小さくできていた。
いつ、こんなところに内出血なんかできたのだろう?


「まさか誰かに吸われたとか?」
「はぁ?まっさかー。あり得ないって」
「ですよねー。なまえさんに限ってんなことあるわけないっすよね」
「おいこらどういう意味だ」
「んじゃま、俺は任務があるんでこれで。……あぁ、なまえさん」
「……んー?」
「なまえさんの手にノーウィングタグが握り締められてたんすけど、あれ回収されちゃいましたから」
「…ノーウィングタグ…」
「大事そうにしてたんでちょいと回収するの戸惑ったんですけどね。軍令部長が無理矢理にでも回収しろってうるさかったんで。それじゃ、お大事にー」


パタン、と静かに戸を閉めて出ていったナギに、私はまた鏡の中を覗きこむ。内出血のできている首元を優しく撫でると、頬に生暖かいものがつたった。


「…?」


涙、だろうか。
なんで涙が出たのかはわからないが、内出血の跡を見て何故こんなにも愛しいと感じたの?…まぁいいか、こんなのすぐ消え……。…消えてほしくないってなんで思ってるんだろう?私は一体何を、忘れてしまったの?


その問いに答えられる人はもういない。



(2012/7/13)