短編 | ナノ

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──コツコツコツ、コツ


「ねぇ、どうして僕についてくるのー?」



ジャックはハァ、と溜め息をつき後ろを振り返る。そこにはいつも自分の後をつけてくる彼女がいて、身を隠すことなく堂々と自分の後ろをついてきていた。後をついてくるのは構わないが、自分にわからないようについてきてほしい…いや正直ついてきてほしくないのだけど。
彼女は真ん丸な目で真っ直ぐジャックを見て口を開いた。



「いけませんか?」

「…いけないわけじゃないけど…」



疑問を疑問で返され、眉を寄せる。彼女は悪びれることなく続けた。



「ジャックさんは嫌ですか?」

「嫌、じゃないけどさぁ…ていうかなんでさん付け?」

「ジャックさんは私の憧れなので」

「あ、憧れ…?君が、僕に?」

「はい」



にっこり笑って言う彼女からは、嘘をついているようには見えなかった。ジャックは参ったなぁ、と呟き頭をかく。自分よりも強い人なんかたくさんいるのに、どうして自分なのか。
ジャックは自分の気持ちを正直に口にする。



「僕強くなんかないよぉ。僕よりもずっと強い人はたくさんいるし」

「それでも私にとってはジャックさんが一番強い方なんです」

「まぁ…そう言われて嫌な気はしないけどさぁ…でも別にさん付けしなくても」

「私がそう呼びたいんです」

「そう?」



はい、と元気よく返事をする彼女にジャックは頬が緩む。そう思われてるのなら悪い気はしないし、むしろ気持ちが良い。さん付けっていうのは慣れないけど…。
と、そこまで考えてジャックはハッと我に返る。
しまった、話題をそらされてた。



「じゃなくて!話題それた!」

「?」

「僕が言いたいのは、なんで僕についてくるのかってことで」

「え、と…」

「べ、別に嫌とかじゃなくて、なんかずーっと後ろついてこられると、へんな気分になるというか…」

「女にストーカーされてるのが嫌なんですか?」

「そうそう、ストーカーされて…え?ストーカーしてる自覚あるの?」

「いえ、へんな気分ってそういうことかなぁと思いまして」



ケロッと言う彼女にジャックは頭を抱えたくなった。自覚してストーカーしていたらそれこそ問題だが、自覚はない、と言っているのでそう信じたい。女にストーカーされてるということ事態、自分的にどうかと思うが。
彼女を正しき道へ戻すためにも、とジャックは腰に手をあてて口を開いた。



「あのねぇ、僕の後ろにピタッとついてくるのは正直どうかと思うんだよねぇ」

「…じゃあ、どうすればいいですか?」

「えっ、えーっとそれはぁ…ま、まずなんで僕についてくる理由を教えてくんない?」

「ジャックさんと一緒にいたいだけですよ」

「え?」

「ジャックさんと一緒にいたいだけ」

「に、二回言わなくてもわかったから!」



なんていうことだ。彼女が自分についてくる理由は、ただ自分と一緒にいたいだけという理由で、ただただ驚くばかりだった。しかも不意打ちだ、そんなことを言うなんて。
心臓がバクバクとうるさい。そんな自分に、満更ではないのかもしれない、と心の中で呟いた。



「…そう」

「はい」

「じゃあ、さ。後ろじゃなくて」

「はい」

「と、隣にいてくれない?」

「え…い、いいんですか?」

「そ、その方が僕も安心、するし」



目を泳がせて言う自分は、なんというか男として情けなく思ってしまった。なにも言わない彼女に、嫌だったかな、と内心ヒヤヒヤしながら視線を移すとバッチリ目が合う。
彼女はとびっきりの笑顔を浮かべて、ひとつ頷くのだった。



(うしろよりもとなりのほうが)



2012/7/9