短編 | ナノ

キングと尻(4)





「あ、キングさ」
「断る」
「まだ何も言ってないじゃないですか!」
「断る」
「だから何も言ってないですって!」



なんだかこの間からキングさん、私を避けまくってる気がします。何故だろう…ていっても心当たりはあります。会う度にお尻触らせてくださいって言っているからだと思います。というかそれしか思い付きません。そりゃ確かに会うたびに触らせろだなんて、セクハラにも程がありますよね。でも今日はキングさんではないといけないことがあるんです。



「キングさん…!今日はキングさんにお願いがあって来たんです!」
「………」
「無視しないでください!今日はお尻のことではないんです!」
「…じゃあなんだ」



キングさんは足を止めて振り返ってくれたので、ひとまず私はホッと安堵の息を吐きます。今回キングさんでしかお願いできないこと、それはキングさんの武器のことでいろいろと揉めていることがあるからです。とりあえずキングさんに後で武装第六研究所に来るようお願いをしに来ただけで、今回はお尻を触ろうなんて微塵も思っていません。
………すみません、少し思っていました。



「俺の武器、か。ちょうどいい、最近拳銃の調子が悪くてな。かえようと思っていたところだ」
「よかった!それでは、武装第六研究所に後で来てください!絶対ですからね!」



本来ならば11組が武器の研究をするのだが、実は私も武器職人として加担しているのです。キングさんの武器はキングさんに見てもらうのが一番いいと思ったから、今回お呼びしたわけです。

キングさんは授業が終わったあとに来てくれるらしいので、私は一足先に武装第六研究所に戻ってキングさんの武器とにらめっこをします。



「なまえちゃん、まだにらめっこしてるのかい?」
「ギルド職員…」
「いくらにらめっこしたところでそれ以上の改良はできないよ」
「そ、そんなことないですよ!このままだと私が納得いかないんです」
「そうかい。まぁ改良したところでその性能を活かせることができるのかな」
「………」



私には兄がいました。その兄は生前、有名な武器職人だったそうです。聞いたのは候補生になってからでしたけど。
私は確かに兄とは違って良い武器職人ではないです。くだらない武器を造っては迷惑がられ、実践にも用いられないし売ることだって許されていません。それでも私は武器を造ることが生き甲斐だから、たとえいらないと言われようとも私が納得するまで改造しまくります。それが度々失敗してしまうのは仕方ないと思ってます。でも今回ばかりは何故かモヤモヤするんです。キングさんの武器だからかわからないんですけど…。





「あぁ、君は0組の」
「どうも」
「武器を買いに来たのかね?」
「そんな感じだ…アイツは?」
「なまえちゃんかい?なまえちゃんならあそこで君の新しい武器とにらめっこしているよ」



ギルド職員が指をさした先には確かに俺の武器であろう拳銃とにらめっこをしているなまえがいた。ふぅ、と小さく溜め息をついてなまえに声をかけようとする。



「………(真剣、だな)」



今まで見たことのないなまえの真剣な顔つきに俺は眉を寄せた。ギルド職員はあんなにらめっこしたって無駄なのになぁ、と溢したのを聞いて俺はギルド職員に振り返る。



「どういうことだ?」
「えっ、あ、あぁ…あの武器はあれで完成なんだよ。だけどなまえちゃんがまだ改良できるって聞かなくてね…君からも言ってやってくれないか?もうあれは完成品なんだから」
「………」



ギルド職員から話を聞いた俺は腰に手をあてて、なまえに近付いていく。本当なら半径5メートル以内に入れたくないのだが(お尻を触ろうとするから)今回ばかりはそれはないだろうと踏んだからだ。



「おい」
「!き、キングさん…」
「やけに真面目な顔して、何考えてるんだ」
「え、えー…」
「それ、完成品なんだろう?」



目線を拳銃に移せばなまえは顔を伏せて、モゴモゴと喋る。なんだ、なまえってこういう奴だったか?そんな錯覚さえ覚えるほど、なまえの様子はおかしかった。



「……完成品、なんですけど…」
「…まだ改良できる、と言っていたらしいな」
「!ま、まぁ…私から見て、ですけど」
「どんな風に改良できそうなんだ?」



それを聞いてなまえは真剣な顔をして拳銃について細かなことをいろいろ喋り始めた。こういうことはインテリの人ぐらいしか知らないしわからないと思ったが、なまえの知識はそれ以上で逆に勉強になるくらいだった。
なまえは今の拳銃は重いから、特注の物を使い拳銃を今よりずっと軽くできる。その特注の物を使えば、重さも軽くなるし撃ったときの反動も軽くなるらしい。特注の物ってなんだ?と聞くとなまえは目を泳がせて、内緒、とだけ呟いた。



「気になるだろ」
「いや気にしなくてもそんな怪しいものじゃありませんから」
「………」
「安心してください!それを使えば拳銃は今よりだいぶ軽くなりますし、反動も軽減されます!……でも、そんな怪しい物組み込まれるより、このままのほうがいいに決まってますよね」
「……やってみろ」
「え?」
「お前のその案、乗ってやる」



いつものお気楽な顔をしないなまえに、調子が狂ったのか気付けばそんなことを口走っていた。自分でも驚きだ。なまえは俺の言葉に顔を明るくさせ、本当ですか!?と詰め寄ってきた。自然と一歩下がってしまう。



「…あぁ、だが条件としてその特注の物を詳しく教えてほしい」
「えっ…!……わかりました。でも、完成したら…でいいですか?」
「あぁ」



今すぐに教えてもらいたかったが、そこまで言うんだ。もう好きにさせたほうが良いと思った。なまえは完成品の拳銃を嬉しそうに持ち、また一週間後、ここに来てください!と言って研究所から出ていった。

…何故俺はあんなことを言ったんだろう。