短編 | ナノ

個人的にはもっと清楚な下着が好みです







今日は風が強い、これでもかと言うくらい強い。ちなみに天気は晴れ。春の嵐とでも言おうか。そんな日はいつもはハーパン(ハーフパンツ)を履いて登校するのだが、今日の朝、風が強いとは知らずに洗濯をしてしまった。しかも二枚とも。今日に限って二枚とも洗ってしまった。濡れているハーパンを履いていくのも気が引けるので(というか気持ち悪い)、今日は風なんかに負けずに頑張りたいと思いました。



──ビュウウゥゥウゥ…

「つよっ!」



外に出てみればあら不思議。木々たちはもう真横に折れそうなくらい軋んでいるし、私の目の前を紙くず(主に新聞)や缶やペットボトルが横切っていくではないか。私の髪の毛も一緒に飛んでいきそうなくらい風は強かった。
目を細めて両手でスカートを押さえながら歩く。こんなときハーパンさえあればスカートなんか気にすることなかったのに、と下唇を噛んだ。
誰にも会いませんように、と祈りながら歩いていたら後ろから私の名前を呼ぶ声が聞こえた。祈ったのに全く効果ねぇ。



「なまえ、奇遇ですね」
「…おはよ、トレイ」
「はい、おはようございます」



朝からトレイに会うなんて災難だ。ハーパンは洗ってしまうし風は強いしトレイに会ってしまうし、今日はツイてない。トレイはにこやかな笑みを浮かべて、まるで風と一心同体かのように見えてしまった。トレイの髪の毛はさらさらと風になびいているが、私の髪の毛はバサバサと風に弄ばれているような気がする。



「今日はハーフパンツ履いていないようですね」
「まぁね。二枚とも洗濯しちゃって」
「よろしければ私のを貸しましょうか?」
「え!?えー…」



少し、いやかなり抵抗がある。トレイに借りる抵抗と、やはりトレイも男なので意識しないわけではない。オドオドしてる私をよそに、トレイは鞄の中から自分のハーフパンツを取り出し爽やかな笑顔で私の目の前に差し出した。その笑顔でハーフパンツ渡されてもなんか複雑だし微妙だよ。



「どうぞ。あぁ、大丈夫ですよ。綺麗ですから」
「いや、でも、今日体育あるんじゃないの?」
「大丈夫ですよ、二枚持ってますから」
「……じゃあお言葉に甘えて」



トレイからハーフパンツを受け取ると、トレイは私の鞄を引ったくるように奪った。目を丸くさせてトレイを見上げると、履くのに邪魔のようですから持ちますよ、と爽やかな笑顔で言われた。気が利くなぁ、と感心しながら風が少しおさまるのを待つ。



──ヒュウゥ…

(今だ!)



風が少しおさまると、私はスカートを押さえていた両手をハーフパンツへと手をかけものの数秒で履き終わることができた。トレイにありがとう!と言うとどういたしまして、と返された。



「あ、鞄ありがとね」
「いえこれくらい大したことないですよ」
「いやーこれでどんな強い風が来てもへっちゃらだよ」
「それは良かったですね」
「あ、これ今日洗って明日返すね」
「いつでもいいですよ。なまえから良いものをもらいましたから」
「え?私トレイに何かあげたっけ」
「はい、ついさっき」
「えー?」



私がさっきトレイにあげたものなんてあったっけ、とトレイと出会って今までの経緯を思い返す。しかしいくら思い返してもトレイに何かあげたものは見当たらなかった。私がなんだっけ?と首を捻ったらトレイはそんな私に微笑みながら口を開いた。



「そうですね、あえて言うなら、個人的にはもっと清楚な下着が好みです」
「はぁ?………!、…とととトレイの変態!バカ!アホ!変態ー!」













後日、トレイのハーフパンツのお尻部分には"変態"の文字が油性ペンでデカデカと書かれていましたとさ。


(2012/4/20)