ナインはキングと共にリフレッシュルームで食事をとっていた。親子丼をかきこむナインの元に同じ組のなまえがナインの肩を叩いた。
ナインは口の中がいっぱいになったまま振り向くと、自分の好きな人が立っていたのでびっくりして吹き出しそうになってしまった。
「ゔっ…ゴホッグフォッ!」
「ちょっ、ナイン大丈夫!?」
「一気にかきこむからだ」
キングは水を優雅に飲む中、ナインは顔を真っ青にさせてグラスに手を伸ばした。なまえはむせ返っているナインを心配そうに見つめる。
ナインは好きな人にむせてるところを見られて、プライドがガタガタッと崩れ落ちてしまった。しかし今は崩れ落ちたプライドを気にする余裕などなかった。とにかく鼻から何かが出てきそうなこの嫌な感じから抜け出したかった。
「……っはぁー!!いっいきなり喋りかけんなコラァッ!」
「っ!ごっごめんなさい!」
「あ…いや…お、俺の方こそいきなり怒鳴ってわりぃ…」
二人の間に気まずい空気が流れる。そんな二人にキングは、ナインが飯を一気にかきこむのが悪い、と思いながら静かに見守っていた。ナインは頬をかきながら、何か用かとナインなりの優しい声で言う。
なまえは目を泳がせながら、後ろに隠し持っていた物をナインに渡した。
「こ、これ…」
「?なんだこれ?」
「そ、の…ぷっプレゼント!」
「……プレゼント?なんでだオイ…」
「!(わ、忘れてる!?そんな、ベタな…)」
のぼせるかと思うくらいなまえの顔は赤くなり、そしてキングに目で助けろと訴えかけた。キングは目線に気付くとはぁ〜、とめんどくさそうに長い溜め息をついた。
キングが助け船を出そうとしたとき、ナインが何かを思い出したかのように喋り始めた。
「おいなまえ、それよりもよ……俺、明日楽しみにしてっからな!」
「明日…?明日…あっ!」
明日と言われてなまえはハッと気付いた。明日はバレンタインデー。もちろん明日はバレンタインデーということでチョコを渡すが、本当にナインは今日が何の日かわかっていないようだった。
自分の誕生日よりバレンタインデーのほうが印象が強いということなのだろうか。
なまえは頭を抱えたくなった。
「な、ナイン…明日はちゃんとチョコ渡すから…今日、何の日か本当にわかんないの…?」
「?なんか今日あったかオイ。………あぁ!」
ナインは何の日かわかったのか掌をポンと叩き、どや顔で口を開いた。
「バレンタインデー、前日の日!だろコラァ!」
「………」
これには思わずキングも頭を抱えたくなった。ナインはどうだ!と自信満々な表情でなまえを見つめたが、なまえは顔を引きつらせていた。
再びキングに目線を送ると、なまえは用があるからとそそくさに二人から立ち去って行った。
「なんだったんだろなぁあいつ」
「……それ、開けてみたらどうだ?」
「おぉ、忘れてた!……つーかもしかしてこれ…」
ナインは綺麗にラッピングされたソレを見つめる。キングはやっとわかったか、と呆れ顔でナインを見つめた。
「まさか…!」
「……やっとわかったか…」
「す、すっかり忘れてたぜ…!」
つーか俺さっきめちゃくちゃ変なこと言ったよな、うわすっげぇ恥ずかし…て、あいつまさか俺が気付いてないのに気付いて行っちまったんじゃ、ど、どうすればいいんだオイキング!?あいつ絶対俺のことばっかじゃねーの!とか思ってるよな、思ってるにちげぇねぇ、あああ穴があったら入りてぇぇ!つーか明日顔合わせられねぇやべぇチョコ諦めるしかねぇのかよオイコラァオイ!
テンパるナインにキングは落ち着け、と促すが落ち着いてられっかぁぁあ!と叫ぶナインにもう嫌だと嘆きたくなった。
付き合っていられるかと投げやりを決意したキングは、さっさとなまえに礼を言ってこいこのバカ、とナインを蹴り飛ばした。ナインは蹴り飛ばされたのにも関わらず、そうだなお礼言わなきゃいけねぇよな行ってくるぜコラァキングサンキュー!と言い勢いよくリフレッシュルームから飛び出していった。
キングは世話の焼ける奴だと溜め息をつくのだった。
(なまえ!)
(!ど、どうしたの?)
(これ……サンキューな!)
(!思い出したんだね!)
(ああ!あ、それと俺のことば、ばかだと思って…ねぇよな?)
(?思ってないよ!ただベタだなーとは思ったけど)
(ベタ?ベタってなんだよオイ)
(………き、気にすることじゃないよ…あ、明日も楽しみにしててね)
(お、おう!楽しみに待ってるぜ!)