短編 | ナノ

あと何秒で、きみを忘れられますか?







「………」



目の前には死にそうななまえの姿があった。その近くにはなまえを静かに見つめるナギの姿もあった。

なまえは剣が腹を貫かれていて辺りには大量の血で真っ赤に染まっていた。なまえが助かる見込みはない。苦しそうななまえの前で1人たたずむナギになまえはゆっくり口を開いた。



「あんた、のほうが…辛そうな顔、してる」



目の前のナギの顔は、なまえよりも酷く辛そうな顔をしていた。

なまえとナギは同期だった。なまえはナギのことを同期としてしか見ていなかっただろう。しかしナギはなまえに対して特別な感情を抱いていた。それを伝えられぬままなまえはナギの目の前で逝こうとしている。

辛くないわけがなかった。
目の前で好きな人が死に逝く様を見るなんて。



「…どうして助けに来たんだよ」

「…なん、のことか、な」

「しらばっくれるな!わかってんだよっ…!」



本当はナギが死ぬはずだった。
自分が囮に使われたと知った時には既に手遅れでもう駄目だと諦めたとき、なまえが颯爽と現れシヴァを召喚し敵を蹴散らしてくれた。敵を殲滅し終わり元の姿に戻ったとき、かろうじて生き残っていた皇国兵に不意をつかれてしまいなまえは腹を貫かれてしまった。

ナギが慌ててその皇国兵にとどめを刺しなまえに駆け寄るがなまえの身体はすでに真っ赤に染まっていた。



「なんでここに来たんだ!」

「な、んでだろ、ね。身体が…勝手に、うごいて…た」

「………」

「はやく…戻って、ナギ…」

「………っ」

「…な、ぎっ…」



早く行け、何のために私が戻ってきたと思ってるんだ、ナギが助からなきゃ全て水の泡となってしまう。

そうなまえの目は言っていた。力なく何度もナギの名前を言うなまえに、出てきそうな涙をこらえ拳を作った。

まさかこんな形で、こんな別れ方になってしまうなんて。



「わたし…分、まで…」



続けるなまえの口を見つめるナギに、なまえはあと少しだけ力を振り絞り口を開いた。



「   」

「!」



そう言い残し目を閉じるなまえに、ナギは小さくなまえの名前を呟いた。



しかし彼女はすでに息絶えていて返事が返ってくることもなくナギの声だけが辺りに響いた。伝えたかったはずの言葉を飲み込み、ナギは彼女を置いて走り出した。

ノーウィングタグを持ち帰ることはしなかった。
走って走って走り抜けるナギの頬に一筋の涙が流れ落ちる。頭の中で彼女との思い出が駆け巡る。





ああ、はやく。
















あと何秒で、きみを忘れられますか?



(好きだからこそ彼には死んでほしくなかった)
(だから、生きて)