やっと思いが通じた。あの時ほど嬉しかったことはないだろう。思いを伝えた次の日、朝からなまえに会った。そりゃあもう天に昇れちまうくらい嬉しかった。なまえも俺に気付いた途端、はにかんで俺に挨拶してくれた。なんか両思いになっただけなのに、こんなにも世界が変わるもんなのかと思った。


「それでー?」
「あぁん?」
「まさか惚気話のために僕を呼んだの?勘弁してよねぇー」
「あー、わりぃ、ちゃんと最初から説明しなきゃいけねぇと思って」
「いやいやぁ最初すぎでしょー。そういえばなまえと付き合ってどんくらいなの?」
「あーっと、……何ヶ月だ?」
「いや僕に聞かれても」


困ったように笑うジャックに俺は腕を組む。
そもそも俺は今日なまえの話を聞いてもらいたくて、こいつを呼んだ。キングやトレイに話すのはなんかちょっと気が引けるし、エイトとエースはこういうの興味ないような気がする。残ったのはジャックだけで、まぁこいつなら真剣にとは言わないがそれなりに聞いてくれそうだと思った。


「本題はなぁに?」
「本題…本題はなぁ…」
「うん?」
「……あのよぉ、付き合うって何すりゃいいんだ?」
「はぁ?」


ジャックの気の抜けた声がサロンに響く。おいやめろ、みんなに聞こえちまうだろうが!そう言うとジャックは呆れたように誰もいないから大丈夫だよ、と言ってのけた。
実際付き合うって何すりゃいいんだろう。いざ付き合っても、なまえとは付き合う前から何も変わっちゃいないのだ。


「本貸してあげたじゃん」
「あーまぁ、そうだけどよ…」
「まさかキスのひとつやふたつできないの?」
「きき、キスぅう!?んなの恥ずかしくてできっかよ!!」
「ぶふっ!な、ナインが恥ずかしがる?!あのナインが?あはははは!笑えるねぇ」
「おいこらてめぇ!笑いすぎだろうが!」
「だ、だって、あのナインが…ふふふ、お、お腹痛い…!」
「くっ…!くそっ、お前に言ったのが間違いだったぜ…」


時すでに遅し、というやつだが。腹を抱えて笑うジャックを睨みつけながら考える。
ジャックやキング、トレイから本は借りていた。その本を読んだりしてみたが、いまいちわからない。
付き合ったらなんでもしてもいいのか?いや、そういう訳にはいかないだろう。なまえがどう思ってるのかが大事だ。
そういえば、なまえは俺のことどう思ってるんだ?確か好きだ、付き合ってくれって言った時、なまえはお願いしますっつったけど、なまえから好きだとかは言われてない。まさか、断り辛くてお願いしますって言ったのか?いや、なまえに限ってそんなまさか…いやどうなんだ実際は。


「…つーかよ」
「はぁ、笑ったぁ。んー?」
「なまえって俺のこと好きなのか?」
「えぇ?なんでそうなるの?」
「あいつから好きだって言われたことまだねぇ気がする…」
「でも付き合ってって言った時、お願いしますって言ったんでしょ?」
「まぁそうだけどよ…」
「弱気なナインってめっちゃレアだねぇ。ぷぷ、かーわいー」
「てめっぶっ飛ばすぞコラァ!」
「そんなことしたら後ろにいるなまえがびっくりしちゃうよぉ?」
「なまえが後ろにいるだぁ?んな嘘通用するかよ!」


今にもジャックに掴みかかろうと言わんばかりに立ち上がったその時、右手を誰かに掴まれた。ぐるりと勢いよく振り返れば、なまえが両手で俺の右手を掴んでいるのが目に入った。
マジでいたのかよ。ジャックが嘘ついたんじゃなかったのかよ。いやちょっとまて、今の会話聞かれてたりしないよな?


「邪魔しちゃ悪いから僕行くねぇ」
「あ、おい!まて、ジャック!」
「うじうじしてるナインなんて、らしくないと思うよぉー。じゃーねぇ」
「うぐっ…」


誰がうじうじしてるっつーんだよ。ただちょっと自信なくなってきただけで…。


「な、ナイン」
「うぉう!?お、おう、いたんなら声かけろよ」


できるだけ普通に声をかける。なまえは顔をうつむかせたままで表情が見えない。でも、右手はしっかり握られていた。
あまりにしっかり握られているからか、体がだんだん熱くなってくる。そういえば手を握ったことって今までない気がする。
つーか今まで何してたんだよ俺。臆病にも程があんだろ。ジャックの言う通り俺らしくもねぇ。


「あの、ね、ナイン」
「お、おう」
「嫌、じゃないんだよ?」
「は?」
「えーと、その、こ、こういうのとか!」
「こういうの?」


そう言ってなまえは両手で右手をふらふらさせる。ん?どういうのだ?なまえの言ってる意味がいまいちわからない。まどろっこしい、はっきり言ってくんねぇと俺にはわかんねぇよ。


「あのよ、そのーはっきり言ってくんねぇ?ほら、俺馬鹿だからわかんねぇんだよ」
「えっ!?えーと、だから…」


俺の言葉にパッと顔を上げる。なまえの顔は俺がわかるほど、真っ赤に染まっていた。恥ずかしいのかまた顔をうつむかせる。やべぇ、なにこいつ、すげぇかわいい。
抱き締めたい衝動に駆られるが、ぐっとこらえてなまえからの言葉を待つ。唸るなまえを待つこと数十秒。なまえの両手が右手から離れた。そしてその瞬間。


「うぉ?!」


手が離れた瞬間、なまえが俺に抱きついてきた。勢いよく抱きついてきたが、よろけることはなく、なまえの両腕は背中に回っている。いきなりのことでどうしていいかわからず黙っていると、なまえがそろりと顔を上げた。茹で蛸のような顔にこっちまで照れてくる。じっと見つめてくるなまえに見つめ返していると、なまえの口が開いた。


「な、」
「…?」
「ナインのこと、ちゃんと好きだよ」
「はぁ?!」
「だ、だから、ナインに何されても、その…や、ではないから…」


俺にしか聞こえないくらいの小さい声を出した後、なまえは俺の胸下あたりに顔を隠すように埋めた。これはこれで、どうしたらいいのかわからない。
とりあえず背中に腕を回してみる。こいつこんなちっさかったっけ。体あったけぇ。髪の毛いい匂いする。やべぇ、付き合うってやべぇ。


「おいおい、白昼堂々見せつけてくれるねぇ」
「!?な、ナギ!?てめぇどこから湧いた!」


ナギがいきなり現れるものだから、反射的になまえと離れる。なまえもいきなり現れたナギにびっくりしたのか、目を見開いてナギを見ていた。
俺の質問にナギはにやりと笑う。


「やっと思いが通じたーてあたりから」
「そ、それって最初からじゃねぇか!盗み聞きすんなコラァ!」
「お前の声がでけぇんだよ。てことでなまえ借りてくな」
「あ、ちょ、待て!」


なまえの腕を引っ張って行くナギに慌ててなまえの手を掴む。
どこへ連れて行こうってんだ。なまえは俺のだぞコラ。


「んな睨みつけんなよ」
「テメェなまえをどこ連れてく気だコラァ」
「どこって…はぁ」
「あ、あの、今から任務で!」
「任務ぅ?」
「そういうこと。任務前にどうしてもあんたに会いたいってなまえが言うからさ」


ナギの話を聞いてなまえに目を移すと、なまえは「ナインに会いたくて」とはにかんだ。胸がいてぇ。なんだこれ、顔がにやけてくる。


「だらしねぇ顔だな」
「あぁん!?んだとコラ!」
「威勢がいい割に迫力ねぇなぁ。そんじゃま、イチャイチャすんのはまた今度ってことで。じゃあな」
「あ、な、ナイン!また連絡するね!」
「あ、お、おぉ…」


ナギに連れられ、サロンから消えていくなまえを見送る。残された俺は、このどうしようもない興奮をおさえるため、ジャックを探すことにした。



(ちょっと、惚気話なら他所でやってよ…)
(俺になら何されてもいいって言ったんだけどよ、どこまでならやってもいいんだ?!)
(そんなの自分で考えてよもうー!)


back


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -