「ミニマム?」
「そう!新作魔法ができたの!」
「なぁに、その魔法」


ジャックは首を傾げてなまえを見つめる。なまえはニヤリと笑って、ふふん、と鼻を鳴らした。


「ていうかなまえって新しい魔法を開発できるんだねぇ」
「これでも魔法学研究者の卵なんだから!ねぇねぇ試してみない?」
「えー?まさか僕が被験者?」
「だめ?」


眉尻を下げて自分に請う姿に、ジャックは肩を落として「仕方ないなぁ」と呟く。惚れた弱みというやつだ。
ジャックの言葉を聞いて、なまえは顔をみるみるうちに明るくさせジャックの手を取った。


「ジャック、ありがと!」
「は…はいはい、どういたしましてー」


突然手を取られたことにジャックは動揺したが、目の前で嬉しそうな彼女を見て自然と笑みが浮かぶ。小躍りしてる彼女を見ながらジャックは「そういえば」と口を開いた。


「結局ミニマムってどんな魔法なの?」
「ん?あ、まだ説明してなかったっけ」
「うん。ていうかどこでやるの?」
「うーん…じゃあ部屋いこっか!」
「そうだねぇ、それがい……え?!部屋!?」


なまえの提案にジャックは口をあんぐりと開ける。なまえはそんなジャックを見て小さく首を傾げた。


「いや?」
「へっ、あ、んーと、いやというか…」
「だってさすがに人に見られたらマズイし…」
「え…ま、まさか危険な魔法じゃない、よね?」
「大丈夫!全然危険じゃないから!」
「そ、そっかぁ、なら安心…わわっ」
「とりあえず私の部屋いこう!」


なまえはジャックの手を取って走り出す。ジャックはその手を振り払うことすらできないまま、なまえについていくしかなかった。



なまえの部屋に入ったジャックは、姿勢良く椅子に座る。目線を泳がせないように気をつけていたけれど、やはり好奇心には勝てなかった。


「(意外と綺麗にしてるんだなぁ…あ、モーグリの置物だ。僕も買おうかな…)」
「ジャック、心の準備はいい?」
「へぁい!?う、うん!オッケーだよ!」


声が思い切り裏返ってしまったことに羞恥心を感じながら、ジャックはぶんぶんと首を縦に振る。そんなジャックを見て、なまえは満足げに頷き、ジャックの体に向けて手のひらをかざした。なまえは魔力を集中させ、詠唱を始める。手のひらから出てくる強い魔力に、ジャックはごくりと唾を飲み込んだ。


「ミニマム!」
「!?」


詠唱が終わったと同時に、ジャックの体に変化が起こる。ぐにゃりと世界が歪む感覚に、ジャックは思わず目を瞑った。

少ししてジャックは恐る恐る瞼を開ける。すると目の前に、大きな顔が現れた。


「うわぁ!?」


思わず後ろに飛び上がり尻餅をつく。そしてその大きな顔の正体に、ジャックは目を見開いた。


「え、え、なまえ?!」
「おー…かわいい…」


なまえは目を細めて笑みを浮かべる。ジャックはその笑みを見て、背筋が寒くなった。ハッと我に返ったジャックは慌ててなまえに話しかけた。


「ね、ねぇこれなに?!僕小さくなってるよね?!」
「ん?うん、だってそういう魔法だから」
「えー、もう、それ先に言ってよ…」
「あれ?言ってなかったっけ?ごめんごめん」


全く悪びれる様子もないなまえに、ジャックは溜め息を吐く。こんな姿にされて怒りが湧かないのは、相手が好きな人だからだろう。惚れた弱みというやつはどこまでも好きな人を甘やかしてしまうらしい。
ジャックはふと自分の体を見る。確かに今の自分は小さくなっていてこびと状態。逆に考えればこんな経験滅多にないのでは、と考えていると、突然浮遊感と共に首元が締まった。


「ぐえ」
「私ってばマジで天才かも…」
「ゴホッ、ちょ、一瞬マジで首締まったから…マント持ち上げないでよぉ…」
「ごめんごめん、ねぇこびとジャック」
「んー?」
「こびとの気分はどう?」


手のひらにいるジャックが顔を上げる。目と鼻の先にあるなまえの顔を見て、ジャックの悪戯心が疼いた。


「んーうん、悪くないかなぁ」
「ほんと?!」
「うん、だってなまえの顔がこんなに近くにあるもん」
「?」


そう言いながらジャックは立ち上がる。そして腕を伸ばし、ジャックの手がなまえの唇に触れた。


「普段こういうとこ、絶対触れないしねぇ」
「!な、何言ってんのばか!」
「うぐっ」


唇を撫でるジャックになまえは思わず手に力が入り、こびとのジャックを握り締める。苦しそうにもがくジャックに、なまえは慌ててジャックを机に置くと、部屋から飛び出してしまった。部屋に取り残されたジャックは、なまえの慌てぶりを見てひとりほくそ笑むのだった。



(あれ?ていうか、僕いつまでこの状態なんだろう?)


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