カトル准将は私の上司だ。カトル准将の部下になったのはつい最近。以前私は女でありながら魔導アーマーを乗ってそこら中を駆けていた。魔導アーマーで遊ぶため、魔物退治と称して偶然町一つ救うことがあったり、魔物と交戦していた皇国軍に、たまたま居合わせてしまって助けたことだってあった。もちろんこれらは全て偶然である。魔導アーマーで遊んでいたところをたまたま通りかかったなんて口が裂けても言えない。
そんな私が、何故かカトル准将直々に指名をもらい、部下となってしまったのだ。これでは魔導アーマーで遊ぶ時間がなくなってしまうじゃないか。どうしてくれよう、このカトル准将さんめ。


「?我の顔に何かついているのか?」
「いえ!眼帯がとても素敵だなあと」
「…言いたいことがあるのなら言え」
「滅相もございません。言いたいことなんて皆無ですから」


ははは、と乾いた笑いをすると、カトル准将は眉間に皺を寄せた。渋くてかっこいい、と周りの女子からはそう言われていて、確かに見た目はなかなかかっこいい。しかし、彼が女といたところなんて一度も見たことも聞いたこともないのだ。それだけかっこいいのだからひとつやふたつ噂があってもおかしくない。そんなに硬派なのかカトル准将。
だからこそ今回の指名で周りの女子は驚愕しているらしい。あのカトル准将が女の部下を指名したのだから、当然っちゃあ当然だろう。


「書類は書けたのか」
「あぁはいどうぞ」
「ん…完璧だな」


カトル准将は私の書類に目を通すと満足気に笑った。笑った?…笑った!


「カトル准将でも笑うんですね!」
「…貴様、我をどう思っているのだ」
「え?どうも思ってませんよ。カトル准将って硬派だから滅多に笑わないと思ってました」
「硬派…?」
「ああいえこちらの話です。えーと、フェイス大佐から書類もらってきますね!」
「あ、待てみょうじ…」


え?と思いながら振り返るとすぐ目の前にカトル准将のお身体が。えっ!?と動揺して後退りしたら、背中に何かが当たった。後ろは多分扉、そして目の前にはカトル准将。え、ちょ、なにこのシチュエーション。え、まさか私、カトル准将に…?そんな、まさか!?


「みょうじ…」
「かか、カトル准将?!」


カトル准将は少しだけ前かがみになる。より近くなった距離に、私の心臓はうるさかった。
まだ部下になって間もない私に手を出すというのか。硬派だと思っていたら意外に軽い人だったのか。いや、軽くても硬くてもとりあえずこの状況はやばい。何がやばいって、私の心臓がもたない意味でのやばいだ。
カトル准将は先も言った通り、容姿もかっこよく女子にもてている。部下からの人望も厚く、頼り甲斐があり、性格も硬派を除けば完璧だ。
孤児院から逃げ出した私を拾ったのも、カトル准将だったらしい。逃げ出したというか迷子になっただけだけど。迷子になったことだけは覚えているけれど、カトル准将に拾われたことは覚えていない。だから真実かはわからず、聞くこともないまま月日は流れてしまった。
いや、今は私の生き様を語っている場合ではない。早くこの状況を打破しなければ。


「カトル准、将!わ、私たちは上司と部下であって、そそ、そのような関係はさすがにいかがなものかと…!」
「?何を言っている?」
「え?!だ、だから上司と部下がこんな…」
「クァールの毛が頭についているぞ」
「関け…クァール?」


そう言うとカトル准将は私の目の前にクァールの毛らしきものを見せる。ほー、確かに真っ白い毛だ。さっきじゃれあってたからそのときついたのかなるほど。
クァールの毛に呆気にとられていると、頭に軽く衝撃が走る。びっくりして顔を上げると、カトル准将の、うわぁなにこいつ、と言いたげな顔が目に映った。


「……あは」
「…馬鹿馬鹿しい。さっさと行け」
「あいあいさー」


挨拶もそこそこに私は急いでカトル准将の部屋を飛び出した。あーなるほど、ただの勘違い。クァールの毛が頭についていたから近づいただけであってそれ以上も以下もない。完全に私の勘違い。


「…い、いや、わかってたよ、わかってたけど、……はぁ」


くそう、期待していただなんて、思ったら負けだ!
なんだか弄ばれたような気持ちになった私はあとで魔導アーマー使って暴れようと決意した。

back


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -