ご飯を食べながらナツさんを盗み見る。ナツさんは窓から外を見ていて、その姿が凛々しく見えて私はパッと視線をナツさんから外した。顔が火照るのを感じながらそれを紛らわすように箸で魚の身をほぐしていると、ふとある疑問が思い浮かぶ。そういえば彼は食事などはどうしているのだろう。 「ナツさん」 「はい?」 「あの、ナツさんはお食事はどうされているんですか?」 その質問にナツさんの口がポカンと開く。 ナツさんが来てから私は一度もナツさんのご飯を食べる姿を見ていない。朝、夜は私が寝てるときに食べているかもしれないけれど、昼はご飯を食べる姿を見たことがない。朝、夜食べて昼抜きとか?大の男が昼食抜くとかお腹は減らないのだろうか。しかも夜だって私が寝てからじゃないと食べられないなんて…私が徹夜したらナツさんはいつご飯を食べられるのだろう。 私のそんな考えを見透かすかのようにナツさんは笑みを浮かべる。 「ちゃんと食べていますよ」 「でも見たことないです」 「そりゃあ、見せないようにしていますから」 「へ?なんで見せないようにしてるんですか?」 「では聞きますが、ナマエ様は俺の素顔に興味があるのですか?」 「えっ…」 その言葉にナツさんを凝視していると、ナツさんの口角がゆっくり上がった。素顔に興味がないといえば嘘になる。でもいざ真正面から聞かれると、どう答えたらいいのかわからなかった。 皇国兵のほとんどは仮面で素顔を隠している。カトル様やフェイス様みたいに素顔を隠していない人はいるらしいけれど、私が素顔を知っているのはその二人とシド様だけだ。身近にいる皇国兵の人の素顔は見たことがない。別に見たいと思ったことはなかったけれど、同じ空間にいるせいかナツさんの顔は見たいと思った。ナツさんが親しみ易いからだろうか。 「見たいな、て顔してますね」 「えっ!?そんな顔してます?!」 「……見たいなら仮面取ってもいいですよ」 「?取ってもいいって?」 「そのまんまの意味です。俺の素顔を見たいならナマエ様が俺の仮面を取ってください」 「えぇ!?」 自ら取ってくれるわけではないのかと驚愕していると、ナツさんが勢いよく吹き出した。 「な、なんでまた笑うんですか!」 「…いえ、ナマエ様の反応がかわいくてつい」 「かっ…お世辞はいらないです!」 そう言いながら私はナツさんから顔を逸らす。顔に熱が集まってくるのを感じて、私は頬を両手で隠した。 ナツさんはきっと女の子に慣れている。そう直感した。 「こっち向いてください」 「イヤです!」 「ぷっ…くくく…」 「また笑う!」 もういい、ナツさんなんてもういい。そう思いながらご飯を全部平らげて「ご馳走さまでした!」と強く言う。その行動すらもナツさんには可笑しかったようで、顔を俯かせて肩を震わせていた。笑っているのを誤魔化そうともしないナツさんにムッとしながら、食器をキッチンに運ぶ。そしてお皿を洗うため水を出そうとしたら、ナツさんの手が私の手に触れた。正しくはお皿を持った私の手の上にナツさんの手が乗ったのだけれど。 「!な、ナツさ…」 「そう剥れないでください。ナマエ様が噂で聞いていたのと全然違っていたのでついからかいたくなったんです」 「う、噂ですか?」 「はい」 噂なんてあったのか、と呆然とする私を他所に、ナツさんが私の手からお皿を取る。そして水を出して洗い始めるナツさんに、慌ててお皿を取り返そうと手を伸ばした。しかし、華麗にかわされる。 「私が洗いますって」 「いえ、俺が洗います」 「でも…!」 「さっき笑ってしまった罰ですから。ナマエ様はコーヒーでも飲んで一息ついててください」 そう言うナツさんにテーブルに目を移すと、いつの間に淹れていたのかコーヒーカップが置かれていた。じろりとナツさんを見上げると、視線に気付いたのかナツさんがこっちを向く。じーっとナツさんを見つめていると、ナツさんは苦笑いして、「では」と口を開いた。 「お皿を拭いてくれますか?」 「!、はい!了解しました!」 ナツさんの言葉に私は引き出しからタオルを取り出して洗い終わったお皿を拭いていく。蛇口から流れる水の音を聞きながら、ふとナツさんの言葉を思い出した。 「ナツさん」 「はい?」 「噂で聞いていたのと違うって言ってましたけど、私ってどんな噂になってるんですか?」 私の言葉にナツさんの手が止まる。首を傾げながらナツさんを見上げると、いつも笑みを浮かべてるナツさんの口元は無表情になっていた。その表情に何故か緊張が走る。 ナツさんが無表情になるくらい酷い噂だったのだろうか。そう不安になる私に、ナツさんはゆっくり口を開いた。 「傲慢で生意気で、そのくせ臆病者な研究者」 「えっ…?!」 その言葉にサァと血の気が引いていく。そんな酷い噂誰が流したのだろう。というかそれ最悪な研究者じゃないか。どうしよう、そんな噂が流れるほど酷い発言してたっけ。 ぐるぐると思考を巡らせているとナツさんの笑い声が耳に入った。 「ふ、はは!嘘ですよ」 「なっ……ナツさん〜〜っ!」 「それとも本気で考えるほど酷いこと言った覚えがあるんですか?」 「ないですよ!……多分!」 「ふは、た、多分って、く、ははははは!」 「〜〜〜っ」 お腹を抱えて笑うナツさんに向かって、私は思わず拳を上げる。それがナツさんに当たる前に、パシッと手首を掴まれた。 「!」 「本当にすみませ…」 ナツさんがそう言いかけて止まる。ナツさんとの距離が思ったより近くて、私は言葉を失った。 [*前] | [次#] [戻る] |