貢物



 アクセサリーショップの中は、今まで見たことがないくらいキラキラ輝いていた。どれもこれもかわいいアクセサリーばかりで、思わず呆然としてしまう。


「ナマエー?」
「!な、なんですか!?」
「どれがいい?」
「ど、どれがいい、と言われましても…」


 こんなところ初めて来た私にとって、どれかひとつ選ぶことなんてできない。あれも、それも、これも、全部かわいくて選ぶに選べなかった。
 どう答えればいいのか悩んでいると、不意にナギがクスクス笑い出す。


「…なんで笑うんですか」
「いや、ごめんごめん。ナマエって本当変な奴だなって」
「それは褒めてるんですか?それとも貶してるんですか?」
「褒めてる褒めてる」
「褒めてるように見えないんですけど!」


 そう言ってキッとナギを睨み付けると、ナギは何故か優しく笑みを浮かべていた。その笑みの意図がわからず、首を傾げる。


「仕方ない。俺が選んでやるよ」
「えっ、ナギがですか?」
「選べねぇんだろ?」
「ま、まぁ、そうですね…」
「なら俺がとびきりかわいいの選んでやる。その代わり、文句言うなよ?」


 釘を刺すように言うナギに思わず口元が緩む。ナギが選んでくれるというなら、その言葉に甘えよう。それに、選んでくれるなんて少し、いやかなり嬉しい。私のために選んでくれる、それが何より嬉しかった。


「じゃー、外で待ってて」
「えっ」
「見られてると選びにくいんだよ」


 そう言って照れ臭そうにナギは頬をかく。そんな姿にときめきながら、私は軽く頭を下げてアクセサリーショップを出た。
 アクセサリーショップから少し離れた場所にあるベンチに腰をかける。ふと空を見上げると、雲ひとつない青空が広がっていた。


「(綺麗…こんな空、白虎で見られることなかったもんなぁ…)」


 白虎は年中無休雪が降っていて、それこそ晴れることなど滅多にない。だから、脱走したとき晴れていたのは本当に奇跡といってもいいくらいなのだ。
 真っ青な空を見て、思わず小さく息を吐く。今自分がここにいるのは、白虎じゃなくて朱雀なんだと改めて実感した。


「ナギさん、お久しぶりですー」
「…?」
「もう、ナギったらいつ帰ってきたの?」
「…………」


 聞きなれた名前を呼ぶ女の子の声に、胸の奥がズキっと痛くなる。そろりと顔を向けると、アクセサリーショップの前で、ナギが女の子たちに囲まれているのが目に入った。


「でもよかったー、ナギが無事に帰ってこれて」
「おー」
「ねぇ、今から遊びに行かない?たまには息抜きも必要よ」
「あー悪いけど無理」
「えーなんでよー」


 ここまで聞こえてくる女の子たちはみんな可愛くて、きらきら輝いて見える。そんな女の子たちに囲まれてるというのに、ナギは笑顔ひとつ浮かべずキョロキョロと顔を動かしていた。
 不意に、ナギと目が合う。


「お、いたいた!」
「えっ」


 そう言うな否やナギはこちらに向かって歩いてきて、そして手を引っ張られた。いきなり引っ張られたからか、バランスを崩してそのままナギの腕の中にすっぽり入ってしまう。


「待たせて悪い」
「い、いえ、そんな待ってないので…」


 腰に手を回す仕草にドキドキしながら答えると、ナギは頭を優しくなでる。突然どうしたのだと頭の中は真っ白になり、周りからの視線に顔を上げられずにいた。


「な、ナギ、その子は?」


 1人の女の子がナギに問いかける。静かにナギを見上げるとバチっと目があった。そして、優しく笑みを浮かべる。


「俺の大切な人」
「え……?」
「そんじゃ、またな」
「あ、ちょ、ナギ?!」


 そう言うとナギは手を引いて歩き出す。ナギに手を引かれながら、ちらりと後ろを振り返ると女の子たちは呆然としたまま、私たちを見ていた。







 ナギに手を引かれたまま着いたのは要人施設で、要人施設の前には朱雀兵の方が立っていた。出かけたときにはいなかったのに、と不思議に思っていると、ナギに名前を呼ばれる。


「?はい?」
「…今日はさんきゅ」
「え、いや、お礼を言うのは私の方ですよ!今日はありがとうございました…凄く、楽しかったです」


 街に出かけて、ナギの元上司さんにも会えて、あんな綺麗なアクセサリーショップに行けて。何よりこうしてナギと一緒に出かけられたのが嬉しかった。
 でも、どうして急に出かけることにしたんだろう。突然出かけるなんて、違和感を感じるし何故か嫌な予感がしてならなかった。


「そうそう、はいこれ」
「?これ…」


 思い出したかのようにナギは袋を差し出す。その袋はさっきアンティークショップで買ったものだ。私にあげるために買ったのかと顔を上げると、ふわっと小さな風が吹いた。そして、頭に違和感を覚える。


「な、何したんですか?」
「ん、すげー似合ってるよ」
「似合う?…あ」


 そっと頭に手を伸ばすと、髪の毛に何かがつけられていた。もしかしてこれ、さっき買った髪留めだろうか。どんな形してるのか見たくて取ろうとしたけれど、ナギに止められてしまった。


「せっかく俺がつけたんだから、取るなよ」
「えー…見ちゃダメですか?」
「見るなら部屋の鏡で見てくれよ、な?」
「…わかりました」


 今すぐ見たいのに。そう思いながら、頷くとナギは満足そうに笑った。ナギにつられて、頬が綻ぶ。


「ナマエ」
「はい?」
「これから…頑張れよ」
「ふふ、もちろんです。早くナギに追いつかなきゃですから」
「そっ、か。あぁ、待ってるからな」


 そう言って頬に手が添えられる。え、と思ったときには額に柔らかいものが当たった。


「じゃ、またな!」


 気が付いたときにはナギが背中を向けて走っていて、私は呆然と見送ることしかできなかった。


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