今日も朝からナギが来て、魔法の練習をしているのだけれど、そのナギがおかしい。朝、いつもより早い時間に来たし、何か話しかけても上の空。しかもずっと神妙な顔をしていて、こう言っては失礼だが凄く気味が悪かった。 「あの、ナギ?」 「え?あぁ、ブリザドだったよな。これは冷気魔法で…」 「いえ、ファイアの事なんですけど…」 「あー…悪い、ファイアの事な」 こんな感じで私と全く話が合わないのだ。何があったのかナギに聞いてみたけれど、困ったように笑って「なんでもねぇよ」と言われてしまった。そう言われてしまったら何も言うことなんてできない。 様子がいつもと違うナギにモヤモヤしながら魔法の練習をする。それなりに魔法の扱い方には慣れてきて、今は中級魔法の取得に必死だった。 「ん、じゃあ今日はもうこれくらいにするか」 「え?まだお昼にもなってないですけど…」 「日頃頑張ってるからな。一日くらい休んだっていいだろ?」 「そりゃあまぁそうかもしれないですけど…」 ちらりと時計を見れば、短針は10を指していた。まだお昼前なのに、もう終わりだなんて本当にどうしたんだろう。 そんなことを思っていたら、不意にナギが私の手を掴んだ。驚いて顔をあげると、ナギはニッと笑う。 「あ、の…?」 「行くぞ」 「へ?」 「もう許可は取ってあるから」 「許可?ちょ、どういう…」 そう言い終わる前に手を引かれて、私たちは部屋を飛び出した。驚いてナギを見上げるけれど、ナギは振り返ることなく部屋の廊下をずんずん歩いていく。 この施設に来てから一度も部屋から出たことがない私を、ナギはどこに連れていこうと言うのか。まさか今から偉い人たちのところに行って処分のことを言い渡されるのだろうか。 悪いことばかりが頭を過るなか、いつの間にかナギと一緒に外に出ていた。そのまま歩き続けるナギに、私は声を掛ける。 「ど、どこに行くんですか?」 「ん?まぁ、ちょっと街にな」 「街に?!いいんですか!?」 「だから許可取ったって言っただろ」 「でも私なんかが街に行ったら…うわっ」 全部を言い切る前に、突然ナギが立ち止まった。そして私に振り返ると、顔に手が伸びてくる。咄嗟に目を瞑ったら、頬に違和感を覚えた。 「……何するんですか」 「ナマエってさ、頬柔らけえよな」 「な、ナギも柔らかいですよきっと」 「俺のはそんな柔らかくねぇよ。と、あのな、ナマエ」 「?はい」 「お前はもう、ここの人間だから」 「え?」 そう言うとナギは私の頬から手を離してまた歩き出した。その背中を見つめながら、ナギの言葉の意味を考える。 ここの人間、ということは私は朱雀に受け入れられたということだろうか。そうだといいけれど、なんか釈然としなかった。 ◇ 要人施設から歩くこと15分、私たちはようやく朱雀の街に出られた。要人施設からこんなにも街が遠いとは正直思わなかった。賑わう街中をボーッと眺めていると、突然ナギが私の顔を覗き込んできた。 「わっ!?」 「おい、人の顔見てわっ、はないだろ」 「ご、ごめんなさい。急に出てきたのでつい…」 「まぁいいや。んーじゃあとりあえず腹ごしらえするか!」 「えぇ、まだお昼前…」 「ナマエは腹減ってないのか?」 「…す、少しお腹減ってます」 「ん、素直でよろしい」 そう言ってナギは私の頭をぽんぽんと軽く叩く。なんか年下扱いされてるみたいで、ちょっと恥ずかしいし情けない。それにナギって女慣れしてそうで、そういう行為をされるのはあんまりいい気はしなかった。 街の中を歩いて数分、洒落た感じの喫茶店が目に入った。そこへ向けてナギは歩いていく。やがてそのお店の扉を開けると、ナギが声をあげた。 「おーい、いるか?俺だけど」 「らっしゃい…お、ナギじゃないか」 「こんちは。おっさん」 「珍しいな、ナギがここに来るなんて」 「たまには顔ださねぇとと思ってな」 「はは、そうかい。ま、ゆっくりしていきなさい。…ん?そちらのお嬢さんは?」 「あ、こ、こんにちは…」 白ひげがよく似合うおじさんと目が合って、慌てて挨拶をする。おじさんは私を見るなり、目を細めてナギの頭をぐしゃぐしゃと撫で始めた。 「ちょ、やめろよ!」 「わははは、まさかお前が女を連れてくるとはな!」 「いいだろ別に!」 「いやあ、女っ気あるくせにいつまで経っても女を連れてくる気配すらなかったお前が、とうとう連れて来るなんて…嬉しくて嬉しくて」 「どうせ弄るための材料が出来たとでも思ってんだろ!」 「まさか、そんなわけないだろ」 「ならそのニヤニヤした顔やめろ!気色悪い!」 やけに親しげな二人に呆気に取られる。呆然としている私にナギが気付いたのか、私の手を引いてカウンターへと向かった。 [*前] | [次#] [戻る] |