魔法



 翌日から私は要人施設での生活が始まった。
 いつまで続くのか分からないけれど、ナギがクリスタリウムというところから持ってきた本を読んで気を紛らわす。それでも1日がこんなに長く感じたのは初めてだった。
 食事は毎回ナギが持ってきて一緒に食事をしている。朱雀のことを色々教えてくれて、ナギが来れないときはエミナさんが来てくれた。私が不安にならないように、配慮してくれているのは凄く有り難かった。


 要人施設で生活が始まって3日目。今日はナギがカヅサさんを連れて現れた。あの一件があったからかカヅサさんに対して少し警戒してしまう。
 そんな私を察してか、カヅサさんは頭をかきながら苦笑を浮かべた。


「いやー、警戒されてるねぇ」
「そりゃあんなことすりゃ警戒もされますって」
「あの件は本当にごめんね」


 カヅサさんは眉根を下げて謝罪する。仕方ないことだと頭では分かっていても、身体が拒絶反応を起こしていた。それを悟られぬよう、私は首を横に振って「気になさらないでください」と口にする。
 それよりも今日はまたどうしてカヅサさんがこんなところに来たのだろう。そう不思議に思っていたら、不意にカヅサさんが口を開いた。


「今日はね、君に魔法を覚えて貰おうと思って」
「魔法を?」
「そう。体内に魔力があるんだから、魔法は使えるはずなんだよね。詠唱さえ覚えれば使えると思うよ」
「魔法の詠唱ですか…」
「詠唱って言っても簡単じゃないからな?」


 念を押すように言うナギに私は小さく頷く。すると、カヅサさんは鞄から分厚い本を取り出した。それはナギに持ってきてもらってる本よりも分厚くて、それとなく辞書と酷似している。そんな本をカヅサさんは机の上に置いた。


「これ、初級魔法から上級魔法が載ってる本ね。詠唱や魔法の構造、他にも色々載ってるから見て覚えてね」
「こ…こんなにもあるんですか…」
「研究者だったのなら覚えるの早そうだけど、どう?」


 いや、どう?と言われましても。
 こっちに来てまだ日は浅い。要人施設での生活を強いられているにも関わらず、やることがあり過ぎて目眩がしそうだ。でも、これをやらなきゃここで生きていくことはできない。
 私はその分厚い本を手に取って、パラパラとページをめくる。魔法の構造らしきものや仕組みなど、事細かく書いてあって、思わず目眩がした。


「ぜ、善処します…」
「あはは、まぁわかんないとこあったらナギ君に聞いてよ。ナギ君なら手取り足取り教えてくれるだろうからさ」
「変な言い方すんのやめてくれませんか」


 そう言ってナギはじとりとした目線をカヅサさんに向ける。そんな目線を楽しむかのようにカヅサさんは笑って、部屋から出て行った。
 二人きりになると、ナギが深い溜め息を吐く。


「あんなんだから変態だなんだ言われるんだよ…」
「カヅサさんっていつもああなんですか?」
「そうだぜ。研究のために人を気絶させて研究所に連れ込む、変態研究者」
「き、気絶させて連れ込む、ですか…」
「まぁ悪い人じゃねぇんだけどな」


 確かに、話した感じ悪い人では無さそうだ。ただ研究のためとなると人が変わるだけで…でも気絶させるってなんで気絶させる必要があるんだろう。
 そう思うけれど、何故か背筋が寒くなってきて私は首を横に振った。そして、カヅサさんが持って来てくれた本に視線を移す。
 この中に初級魔法から上級魔法の構造や仕組み、詠唱などが書かれていると思うと、早く読みたくて仕方なかった。


「早く読みたいって顔してる」
「な、なんでわかるんですか」
「図星かよ。まぁナマエも一応研究者だったもんなぁ」
「一応は余計ですよ!」
「はは、悪い悪い。んー、じゃあ明日から魔法の練習するかー」
「え?ここで魔法を使っても大丈夫なんですか?」
「魔法のコントロールの練習にもなるし、良いんじゃね?」
「そんな適当な…」
「大丈夫だって、俺がついてるから」


 ナギはそう言って優しく微笑む。その笑みが私の心の支えになっていることなんて、きっと彼は知らないだろう。







 その頃、ある会議室では、ナマエの処分について八席議会が招集されていた。
 そこには朱雀最高責任者、カリヤ・シバル6世がいる他、軍令部長スズヒサ・ヒガト、学術局局長ザイドウ・テキセ、院生局局長ミオツク・オオフマキ、兵站局局長タヅル・キスガが机を囲んで座っていた。


「白虎と朱雀のハーフだと?」
「加えて魔力を備えているとの報告を受けています」
「そんな危険な人物が何故要人施設にいる?!もしかしたら白虎の手先かもしれんのだぞ!」
「それは潔白されているそうですよ」
「そんなもの、信じられるか!」
「まぁ落ち着きなさいな。それよりも、彼女の母親はあの研究会の一員だったそうじゃないですか」
「まさか、白虎にその情報はいっていないだろうな?」
「それはわかりませんが、白虎に潜入した諜報部からは何も報告は受けておりません。彼女の母親が死んでしまったから記憶がなくなっている、だけかもしれませんが」
「それで、カリヤ院長はあの娘をどうするおつもりですか?」


 すべての視線がカリヤに注がれる。カリヤは局長たちを見回し、そして口を開いた。


「彼女は魔法局に身を寄せることになるでしょう」
「魔法局?!あの女の元にですか!?」
「魔法局局長、アレシア・アルラシア…彼女はここに居りませんが、話はついているのですか?」


 魔法局という言葉が出た瞬間、スズヒサの顔が険しくなる。それを横目にミオツクはカリヤに問いかけた。
 ミオツクの問い掛けにカリヤはゆっくり頷く。


「ナマエ・ミョウジの母親は一時期彼女と交流していたそうです。その記録を見せたところ、彼女からそう申し出がありました」
「くっ…あの女め、何を考えてるつもりなのだ…」
「そうカッカすることもないだろう。魔法局局長自ら申し出…もし何かあったら責任はすべてアレシア局長が被ることになるのでしょうし」
「…ふん、そうですな。朱雀と白虎のハーフだというのも疑わしいのに、そんな得体の知れない小娘の面倒を見るとは、物好きな女だ」


 そう言って鼻で笑うスズヒサに、同意だと言わんばかりにザイドウは頷いた。


「では、ナマエ・ミョウジの処分は魔法局局長に身を寄せるというのとでいいですね?」
「えぇ、通達させるよう手配しておいてください」
「わかりました」


 カリヤの言葉にミオツクは返事をして、会議室を後にする。それを見送ったカリヤは、後ろを振り返り、窓から見える空を仰いだ。


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