出身



 目を開けると、知らない天井が目に映る。まだ身体が痺れてるのか、ところどころヒリヒリと痛むけれど、起き上がれないほどではない。ゆっくり身体を起こして周りを見回す。


「どこだろ…」


 確かナギとクラサメという人に会って、それからカヅサという人に会って、握手した時に目の前が真っ暗になって…。


「(なんか改めて考えてみると皇国出てから災難続きだなぁ)」


 ナギと出会ったことから全ては始まり、色んな苦難を乗り越えて今私はここにいる。それがどうしても夢みたいで、でも身体の痺れを感じるということは決して夢ではなくて。むしろこれが夢だったら、ずっと醒めないでほしい。
 そんなことをぼーっと考えていると扉の開く音が耳に入った。そこから入ってきたのは、ナギではなく綺麗な女の人だった。


「あら、目が覚めたのね」
「え、と…」
「あ、ワタシはエミナ。ここで働いてる武官よ」


 にこりと微笑むその人に、私は頭を軽く下げる。こんな綺麗な人がいるんだ、と見惚れていたらエミナさんはクスクスと小さく笑った。


「そんな見られると照れちゃうじゃない」
「え、あ、すみません!綺麗な人なのでつい…」


 そう言うとエミナさんは目を一瞬見開いて、また笑い出す。どう接していいのかわからずにいると、エミナさんは笑うのをやめて私と視線を合わせた。そして口を開く。


「白虎から亡命してきたんだって?」
「!、は、はい…」
「あぁ大丈夫、このこと知ってるのワタシとクラサメ君、カヅサくらいだから」
「そ、うですか…」


 それを聞いてホッと安堵の息を吐く。上層部の人に知られるのは時間の問題だとして、周囲に噂なんてされたらナギがなんて言われるかわかったものではない。もしかしたら嫌なことを言われるかもしれないのだ。そんなことになったら、ナギに申し訳なくて合わす顔がない。


「そうそう、カヅサが乱暴したみたいでゴメンね」
「え?あ…いえ、身体検査されるのは仕方ないですから」
「だからって女の子相手に酷いわよ。ワタシからよーく言っておくから安心してね」


 そう言ってウィンクするエミナさんはもはや様になっている。こんな素敵な女性になれたら、と思ってるのはきっと私だけではないだろう。
 そういえば、とエミナさんを見上げる。エミナさんは私と目が合うと、小さく首を傾げた。


「あの、ここってどこでしょうか…」
「ここ?ここは要人施設よ」
「要人施設…」
「もうすぐクラサメ君が来ると思うけど」


 そうエミナさんが言うと、ちょうどそこへ扉をノックする音が聞こえる。エミナさんが返事をして扉を開けに行くと、そこからナギとクラサメさんが部屋に入ってきた。
 ナギは私と目が合うなり、目を細める。それが妙に照れ臭くて私はナギから目を逸らした。


「ワタシが来た時には起きてたわよ」
「そうか…ナマエ・ミョウジ」
「は、はい」
「身体検査をした結果、お前の身体の中から魔力が検出された」
「……え?ま、魔力、ですか?」


 私がそう言うと、クラサメさんは小さく頷く。魔力が検出されたということは、結局どういうことだろう?白虎から亡命してきた私が魔力を持っている?白虎生まれで白虎育ちの私が魔力を持っているなんて、そんなこと有り得るのだろうか。
 思いがけない事実に呆然としている私を他所に、クラサメさんは続ける。


「何故自分に魔力があるのかわからないようだな」
「……だって、私白虎で生まれて白虎で育ってます、し」
「両親の出生地は覚えていないか?」
「出生地…?」
「…信じ難いかもしれんが、お前の母親は朱雀出身、父親は白虎出身だ」


 その言葉に唖然となる。まさか自分の両親が朱雀出身と白虎出身だなんて思わないだろう。クラサメさんの言葉が頭の中で何度も繰り返される。
 母親が朱雀生まれ、父親が白虎生まれということは、私は白虎と朱雀のハーフということだ。そんな私の中に魔力がある。それは両親がハーフじゃなかったらあり得なくて、つまり私は――。


「驚くのも無理はない。だが、全て事実だ」
「…これから、どうなるんですか?」
「それは上層部が決めることであり、我々にはどうこうすることもできない」
「そう、ですよね…」


 朱雀の上層部が決めることなのはわかっている。わかっているけれど、やっぱりどうなってしまうのか怖くて、私は自分で自分を抱き締めた。


「お前の処分は追って伝える。それまではここで大人しく待機していてもらいたい」
「……はい」
「身の回りのことなどは遠慮なくナギを使ってくれ」
「ちょ、クラサメ士官その言い方なんかおかしくねぇ?」
「よかったね、ナギ君」


 エミナさんがそう言うと、ナギは照れ臭そうに頬をかいて小さく笑う。ナギが側に居てくれるのは心強いけれど、先行きが不安で仕方なかった。


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