朱雀



 チョコボに乗ったあと、途中休憩しながら朱雀のペリシティリウムに向かう。朱雀のペリシティリウムについて、ナギから道中色々聞かされた。
 魔導院というところには私と変わらない年の子がアギトになるため、日々鍛錬していること。候補生になるためには厳しい試験が用意されており、合格した候補生は自身の能力によって組み分けされること。基本的にクラスの数字が小さいほど実力が高いこと。
 ナギの組についても教えてもらった。諜報四課を中心に構成された汚れ仕事を担っていることを。


「その他にも色々あるんだけどさ。また着いたら教えてやるよ」
「…私、本当に行っても良いんですかね」
「ん?なに、心配か?」


 チョコボに揺られながら、ナギの服をぎゅっと掴む。そんな凄い人たちがいるところに今から乗り込むのは正直言って怖い。ナギがいるからといっても、魔導院に着いたらきっとナギと離れ離れになってしまう。その後のことが全く想像できなくて余計怖かった。
 そんな私の額に何かがくっつく。手、の感触ではない。これは、もしかしてもしかしなくてもナギの、頬…?


「大丈夫だから安心しろ」
「……根拠はあるんですか」
「んー、ねぇな」
「…………」
「まぁ着けばわかるって」


 そう言って微笑むナギに私は頭をナギに預ける。なんでそんな自信があるんだろう。ナギには何か策があるというのだろうか。まぁでもナギならありそうな気もしないでもないけれど。
 何故か笑いが込み上げてきて、小さく笑う。それをナギが気付いていたかはわからないけれど、腰に回っている手が僅かに力が入った気がした。







「ここが、朱雀のペリシティリウム…」
「おう」


 チョコボ牧場というところにチョコボを預けたあと、私とナギは魔導院の噴水広場というところにいた。白虎のペリシティリウムも相当だったが、朱雀のペリシティリウムも負けていない。それに、白虎とは違って気候も穏やかで風も冷たくないし、太陽の光が優しくて暖かい。
 呆然とする私の側に、誰かが近寄ってきた。思わずナギの後ろに隠れてしまう。


「お前がナマエか?」
「え、は、はい…」
「魔導院に入る前に身体検査を受けてもらうが、構わないだろうか」
「あ、はい…」


 目の前にいるナギとは違った服装で口元をマスクで隠している人にそう言われ、頷かないわけにはいかない。身体検査を受けるのは当然だろう。白虎の人間なのだから、武器を隠し持っているかもしれない可能性もあるのだから。
 目の前にいる人はナギに目配せをしたあと「着いてこい」と言って魔導院の中に入っていく。ナギを見上げると、彼は小さく頷いてさっきの人に着いて行った。私もそれを追い掛ける。

 魔導院の中に入って右奥の扉へ向かっていく。魔導院の中は想像していたものよりもずっと綺麗だった。あちこちに謎の装置があって、好奇心を掻き立てられる。白虎は機械の国で、朱雀は魔法の国なのだ。造りが違っていて当然だろう。


「やっぱ気になるか?」
「えっ、いや、うー…正直かなり気になります…」
「だろうな。俺も白虎に乗り込んだときナマエと同じように挙動不審だったわ」
「え!?」
「まぁでもここまで酷くはなかったけど」


 そう言って笑うナギに私は顔を俯かせる。そんなに挙動不審だっただろうか。だって何もかも初めて見るものばかりで、研究者として気にならないわけがない。あれも気になる、これも気になる、で知りたいものだらけだ。
 右奥の扉を開けると、沢山の本棚が目に映る。下から上まで、本棚で埋め尽くされていて、もちろん棚の中は本でいっぱいだった。
 1日に何回驚かされるんだろう。白虎も本の多さは負けていないけれど、朱雀もここまであるとは正直思わなかった。


「ナマエ、こっちこっち」
「はっ?!す、すみません!」
「すげぇ反応だなぁ。ここまでびっくりする奴初めて見たぜ」


 苦笑するナギに、私は恥ずかしくなり目を伏せて唇を尖らせる。仕方ないじゃないか、ずっと白虎で住んでいたのだから。そう言いたいのを堪えて、ナギに着いて行くとある本棚のところで足を止めた。


「カヅサ、俺だ。開けろ」


 本棚に向かってそう声をかける。すると、ズズズ、と音を立てながら本棚が横に移動した。
 もしかして隠し扉ならぬ隠し本棚?朱雀にはそんなものまで存在しているのか。朱雀も発展してるんだなぁと感心していると、本棚の向こうから一匹のモンスターが現れた。
 緑色のその子は服を身に付けていて、誰かに飼われているのかと首を傾げる。その子はマスクの人の側に歩み寄り不意に私に視線を向けた。つぶらな瞳に頬が緩む。


「やぁ、クラサメ君にナギ君。待ってたよ」
「早速だが」
「うん、準備は整ってるよ。えーっと、君がナマエ君かな?」
「あ、そうです」
「ボクはカヅサ。しがない研究者さ。よろしくね」


 爽やかな笑みを浮かべて、スッと手を差し出すその人に、私は恐る恐るその手を取る。その瞬間、体に電流が走ったかのような痛みを感じた後、グラリと視界が揺らいだ。


- 32 -


[*前] | [次#]
[戻る]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -