魂源



 研究室に戻った私は寝室に入って、ベッドを少しだけずらす。そしてベッドの下から現れた床下収納に繋がる取っ手を掴んで引っ張りあげた。床下から現れたのは色とりどりの薬剤で、私はそれをひとつずつ手に取っていく。
 これは研究所からくすねてきた材料で、私自身が作り上げた薬品の数々だ。私を研究所に入れさせない彼らに不審を抱いた私は、命からがら材料を手に入れ以前から密かに実験を試みていた。でも研究室に器具が揃っていないせいで中途半端なものも含まれているけれど。
 実験の成功と結果がでている薬品がほとんどだが、その中にはまだ研究者らが試していない薬品もある。それらは私独自で編み出した薬品で、どういう効果が出るのかだいたいの予想はできているけれど、実際に試したことはない。命の保証がないものもあるかもしれないからだ。処分しようにもできずずっと隠していたが、それが今役に立つときがくるとは思わなかった。


「…回復薬は絶対いる、よね」


 ナツさんのことはまだ記憶にあるから死んではいないと思うけれど、多分相当痛め付けられているに違いない。持てるだけの回復薬と、相手を眠らせる睡眠薬、そして未だ試したことがない薬品を鞄に詰め込んでいく。
 ナツさんを助け出すということは白虎を裏切るということだ。頭ではちゃんと理解しているし覚悟を決めたはずなのに、薬品を持つ手が自然と震えてしまう。こんなところナツさんに見られたらまた笑われてしまうなと苦笑しながら、持てる限りの薬品をつめた鞄を背負いゆっくりと立ち上がった。







 研究室を抜け出す前に私はある薬品を口にする。その薬品の効果は一定時間透明になれる薬だ。
 この薬は材料の関係でたったひとつしか作れなかった代物だから、他の研究者には知らされていない。まさか、生物の魂を使っているなんて周りに知られてしまったら、それこそ私の命が危ぶまれるだろう。


「(それにしても、なんで両親は生物の魂なんかを所持していたんだろう)」


 ずっと前から不思議に思っていた。何故そんなものを残して私が使うように仕向けたのだろうか。いや、とにかく今はそんなことを考えてる余裕はない。
 その薬の効果はすぐに現れた。両手を見ると、全く手の形が見えない。多分無事透明になれたのだろう。背負っている鞄が透明になっているかチェックも怠らず、身体含めて全部が透明になっているのを確認できた私は大きく深呼吸をした。


「……よし」


 ここまできたら後に引けない。ナツさんを必ず助け出す、その決意を胸に、私は研究室を飛び出した。

 明け方までもうほとんど時間はない。最短距離で地下牢に行くにはいくつもの研究ラボを通らなくてはならなかった。幸い時間帯のお陰もあり、廊下には少数の兵しかいない。駆け抜けるのなら今しかない、そう思いながら、私はもうひとつの薬を口にした。
 身体の内から熱いものが沸き上がってくる。段々身体が軽くなっていくのを感じた私は思いきり床を蹴った。


「…?今、なんか通らなかったか?」
「は?気のせいじゃねぇ?」
「……風が吹いた気がしたんだけどな」
「風ぇ?閉めきってんだから風なんか吹くわけないだろ」
「だよなぁ」


 それが気のせいではないことなど、彼らは知るよしもないだろう。

 研究ラボを通り抜けるとある一角に南京錠で封鎖されている鉄の扉が目に映った。あそこが地下牢に繋がる入り口だ。その扉の左右に見張りだろう皇国兵の姿が目に入る。私は直ぐ様鞄から睡眠薬入りの霧吹きを取り出した。まだ透明になれる薬の効果はきれていないらしく、その二人に近付いても全く私に気付いていない。
 どうやらこの薬は私が触れているもの全部が透明になるらしい。ということはナツさんを救い出したとき、私がナツさんに触れていれば透明になれるということだ。これは思っていたより相当使える。
 忍び足で皇国兵に近付いた私は、相手の顔の目の前で睡眠薬入りの霧吹きを吹き掛ける。そのまま倒れる皇国兵に驚くもう一人にも霧吹きをかけた。即効性があるお陰で二人は力なく床に横たわる。


「(失礼します……)」


 横たわる二人のうち一人の懐に手を入れて鍵を探す。すんなり鍵が見つかるとすぐに南京錠の鍵穴にそれを差した。
 この先が南京錠でしっかり封鎖されているのは訳がある。拷問するための部屋はもちろんだが、あそこには人体実験をする部屋もあった。私が見たのは小さい頃、両親に連れていかれたのが最初で最後だった。
 当時、捕虜をとっていた白虎は、その人間を人体実験として使っていたのだ。強力な薬に耐えきれず死んだ者もいれば、薬によって肉体が向上し、暴れる者もいたらしい。私は実際見ていないけれど両親からよく聞かされていた。同時に、両親が白虎に対して良く思っていないことも。
 南京錠が取れると重い鉄の扉を開ける。そこから階段になっていて明かりも見当たらず行き先は闇に包まれていた。


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