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「メイ、遅いよー!」
「ごめんごめん」


 来賓室に入るとジャックが飛び付いてきた。私はそれを制止しながら、ジャックに謝る。
 ジャックは私の顔を覗き込み、何かあった?と首を傾げた。本当にジャックは勘がいいというか何というか、どうしてそういうところは鋭いんだろう。


「何にもないよ」
「…そっかぁ、僕でよかったら悩み事聞くからいつでも言ってね」
「ん、ありがと」


 ジャックにお礼を言うとジャックは嬉しそうな顔をして私の手を取り、ホテルの外へと連れ出した。それにしても会談はどんな様子なんだろうか。


「もうっ!こんなときまで眉間にシワ寄せないのー!」
「!ぶ」


 いきなりジャックが両手で私の両頬を挟む。びっくりして上を見上げるとジャックが真剣な顔をして私を見つめていた。


「なにふるの」
「だぁってせっかくのデートなんだからそんな顔してほしくないんだもん」
「……はいはい」


 こんな状況でデートと言うジャックのポジティブさが少し羨ましかった。
 仕方なくそう返事すると、ジャックはニッコリ笑って手を離し私の右手を握る。ジャックに免じて、今だけ会談のことは頭の隅に置いておこう。

 ホテルの前の階段を降りるとデュースさんとキングさんが従卒らしき女の子の前に居るのが目に入る。私に気付いたデュースさんはメイさん、と声をかけてくれた。


「メイさんはアリアさんのこと知りませんよね?」
「え、あぁ、0組の従卒さん…アリアちゃんって言うの?」
「あ……はい…」


 モジモジとするアリアちゃんを見て、かわいいなぁと呟くとアリアちゃんは驚いた様子で私を見つめた。
 ジャックは早く行こうよぉーと後ろでぶつくさ言ってくるので、私はデュースさんとキングさんにごめんね、と謝り3人の元から離れる。3人の元から離れたと思ったら、また聞き慣れた声がした。


「あれ、メイじゃないか」
「!と、トキトさん…」
「どうしたの?その格好…」


 制服じゃない不自然な服装をしている私に、トキトさんは首を傾げて問い掛けてきた。
 クラサメ隊長の話だと一部の人しか私のことは知らされていないし、トキトさんが不思議がるのも無理はない。どう説明しようか悩んでいたら急に手を引かれた。


「!」
「メイもここ白虎に潜入してたんだよー、それでこのホテルで僕らと合流しただけ。ね、メイ」
「え、うん、そう!ちょっと任務で白虎に潜入していたんです」
「そうなんだ、だからそんな格好してるんだね」


 トキトさんはジャックの答えに何も疑問を持たなかったらしい。とりあえずは助かったっぽい。
 ジャックに目線を向けるとニッと笑った。


「じゃ街回り行ってきまーす」
「ちょ!あ、トキトさん、また魔導院で!」
「はは、あぁ、行ってらっしゃい」


 トキトさんは笑って私たちを見送った。こんなとこをトキトさんに見られるなんて、少し気恥ずかしくも感じた。
 ジャックにありがとうとお礼を言うと歩きながら、さっきの人知り合い?と聞かれ、まぁそれなりに…と答えるとジャックはふーんと呟き手を強く握り締めるのだった。