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 アンドリア女王と話した後、来賓室に戻ろうとすると片隅で何かを話しているマキナと軍令部長が目に入った。何を話しているのか気になった私は気配に気付かれないように二人の側へ近寄る。


「…こんな時に言うべきことではないのかもしれん」
「あの、何の話ですか?」
「君の兄上のことだ」
「!」


 軍令部長から発せられた言葉はマキナのお兄さんのことだった。
 マキナにお兄さんが居たなんて知らなかったな……兄?そういえばマキナのファミリーネームって…。


「君は兄上の死に関して、納得がいってないようだね。君から兄上の死に関する問い合わせがあったと、報告を受けている」
「いくら探しても、あの日、兄さんがあたっていた任務の記録がないんです」


 マキナは険しい表情で軍令部長に言い、私はそれをそっと見守る。マキナのお兄さんの戦死記録がないとはどういうことなのだろうか。


「君はもう察しているだろうが、君の兄上は極秘任務を遂行し戦死した」
「兄さんが……極秘任務を?」


 極秘任務…そういえばあの解放作戦の日、極秘任務を遂行する1人の兵士がいた。確か私はその極秘任務を遂行する兵士に、通信を通してサポートをしていて……その兵士が、まさかマキナのお兄さんだった…?


「首都解放作戦での0組の投入は極秘事項だった、私でさえギリギリまで知らされなかったのだ。よって戦場に投入された0組と、作戦司令部とのかけ橋が急きょ必要となった。そのかけ橋が、君の兄上だったのだ」


 それを聞いて、私はすぐにピンときた。やっぱり私が通信でサポートしたのはマキナのお兄さんで間違いない。
 あの時、私はマキナのお兄さんと解放作戦のために戦に出ようとしていた。そのときナギが慌てて駆け寄って来てお兄さんの名前を呼んだ。マキナのお兄さんがナギに近寄ると、ナギはCOMMを渡して0組に渡してくれ、と…なんで私、そのときのことを覚えてるのだろう?
 マキナのお兄さんは戦死したのにお兄さんがCOMMを受け取って走り出したところまで、私の頭の中に記憶として残っている。顔はモザイクがかかったかのように見えないけど、事の出来事は鮮明に頭の中で浮かんでいた。


「それで兄さんはあんな前線に!?」
「そう、君の兄上はドクター・アレシアと0組のせいで亡くなったのだよ。いや、彼らが殺したといっても過言ではない。君の兄上は本来、別の任務に就くことになっていた。それを0組が勝手に出動させ、死地へと誘ったのだ!君の兄上は、死ぬ必要などなかったというのに」
「あいつらが兄さんを……!」
「君が0組に配属されたのは、その素性も目的も謎であるドクターと0組を監視してもらうためだった。だが、まさか君と0組の間にこんな因縁があろうとは…」


 軍令部長の物言いに私は今すぐにでもその場に出ていき、反論をしたかった。けど私が反論を述べることはできない。
 あの時、私が止めていればマキナのお兄さんは助かったかもしれなかったからだ。私が反論できる立場ではない。
 マキナはそれを聞いて0組を憎むだろうか。私を、憎むだろうか。


「もし彼らと過ごすことが辛ければ、私が特別に君を他のクラスに異動するよう計らおう。彼らの監視の任はレム・トキミヤ一人に任せることになるが…」
「!ま、待ってください!レムをあのクラスに一人残すなんてできません。第一レムには、同じクラスの仲間を監視するなんてできないと思うんです。あいつは……優しいから。オレも引き続き0組に残ります」
「ほほう!そうかね!さすがクナギリ君の弟だ!彼らに不審な動きがあった時は報告してくれ」


 そう言うと軍令部長は満足そうに去っていく。私はそれを横目に、マキナとの距離を置いた。
 0組だけが悪者にされるなんて、納得できない。だからといって私にはどうすることもできなかった。でもマキナに自分も悪いことを言わなければ、それこそ卑怯者になってしまう。
 朱雀に帰ったら、マキナに言おう。言って自己満足かと言われればそうかもしれない。けどこのまま言わないでいたら、絶対後悔する。

 私は手をギュッと握り、来賓室の扉を開けた。