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 クラサメ隊長と別れて来賓室に行こうとソファから立ち上がり、後ろを振り返るとそこには蒼龍の女王、アンドリア女王が浮遊椅子に座り穏やかな表情で私に一礼をする姿が目に映った。
 私は驚いて、慌てて片膝をつけて頭を下げる。


「お久し振りですね」
「!お、覚えていたんですか?」
「えぇ、あなたのことは何年経っても忘れませんよ」


 アンドリア女王とはいつかの任務で、たまたま遭遇したときがあった。
 あの頃はまだ私も候補生になったばかりで、皇国兵に追われ負傷を負い殺されかけたところを蒼龍のルシ、ソウリュウに助けられた。アンドリア女王もその時に居合わせたことがあり、そこで少し話したこともある。
 私は今でもあの時のことをハッキリ覚えている。


「楽になさい」
「…は、い」
「ホシヒメ、ユウヅキ、少し席を外してくれますか?」
「わかりました」


 ホシヒメとユウヅキと呼ばれた二人は私に一礼すると、ホテルの外へと出ていく。私はアンドリア女王を見つめると、アンドリア女王はフッと笑い口を開いた。


「大きくなりましたね」
「…あれから、結構経ちましたから」
「…もう、そんなに経ったのですね」


 アンドリア女王は目を伏せて、肩を落とす。私はそれを黙って見ているとアンドリア女王は意を決したかのように顔を上げた。


「先ほど、あの方たちに会ってきました」
「!0組の…?」
「えぇ、あの方たちはこの世界を変えることができると導きを受けました」
「この世界を変える…?」


 アンドリア女王は0組がこの世界を変えてくれる、救世主となる未来を視たのだとわかった。この戦争の終結は0組にかかっているということ。

 私が何故アンドリア女王が未来を予測することができると知っている訳は、任務で会ったときにアンドリア女王は未来を予測することができるというのを自ら話をしてくれたからだ。それを何故私に話したのかは今でもわからない。


「未来を予測したところで、その通りに上手く事が運ぶわけではありません。…確かにあの方たちはわたくしが視た最後の歯車であることはかわりないのですが、あなた次第でわたくしの視た未来よりも、より良い未来を築けるかもしれません」
「えっと…?どういう…」


 アンドリア女王は口を休ませることなく話す。私はアンドリア女王の話の意図が全くわからないでいた。
 0組はアンドリア女王にとっては最後の歯車であり、私次第でアンドリア女王が視た未来よりもより良い未来が築ける?ちょっと待って、そういえばシドにもアンドリア女王と似たようなことを言われたような気がする。


「あの、」
「もう、時間のようですね」
「え!」
「ひとつ、わたくしからあなたに良いことを教えましょう」


 私が首を傾げていたら、アンドリア女王はふわりと笑って口を開いた。


「明るい未来は自分たちで創るもの…それだけは忘れないでくださいね」
「…はい」
「それと、あなたにこれを託します」
「!これ、なんで私に」


 アンドリア女王は自分の首飾りを外し、私の手におさめる。私がどうして、と言うとアンドリア女王はにこりと笑いお守りです、と呟いた。
どうして私に自分の私物をくれたのだろうか。頭の中には疑問符が浮かぶ。


「またあなたと会ったときにあなたの手からそれをもらい受けましょう」
「な、なん」
「それまで持っていてくださいね」


 そう言うとアンドリア女王はホテルを後にした。
 アンドリア女王がそう言うなら、次会ったときにこれを返すことにしよう。私はもらった首飾りを自分の首に着ける。アンドリア女王が言った言葉に次がないことを、この時の私は知るよしもなかった。