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 ホテルのロビーの端にあるソファに私とクラサメ隊長は向き合う形で座る。クラサメ隊長は私が座るのを見て、喋り始めた。


「久しいな」
「…お久し振りです」
「……どうして私がお前を見て驚かないか不思議か?」


 クラサメ隊長は目を細めて私を見据える。
 私がここに居るのがわかったのはナギくらい…あぁ、ナギが知らせたのかな。まぁ知らせたところで朱雀が私のために動くわけがないのはわかってるけど。


「誰から聞いたんですか?」
「トンベリからだ」
「……は?」
「お前のチョコボがトンベリに伝え、それをトンベリが私に伝えてくれたんだ」
「…議会からは何も…?」
「……あぁ、ナギ・ミナツチが議会に話しても何も動こうとしなかった…ナギは議会にメイのことは忘れろ、と言われたそうだ」
「!」


 ナギはその時暴れなかっただろうか。あの人は昔から私のことになると、カッとなって人一人殺しそうになるほどの殺気をさらけ出すことがある。それこそいつものナギじゃないみたいで、最初目の当たりにしたときはすごく怖い思いをした。いくら軍令部長と言えど、戦に出ていたことがあるのだから殺気ぐらいすぐに感じとれるだろう。
 私は目を丸くさせてクラサメ隊長を見つめると、私の言いたいことがわかったのかクラサメ隊長は優しい眼差しでひとつ頷いた。


「私がその場にいなかったら大変なことになっていただろうな」
「あ、ありがとうございます…」
「メイが白虎に連れ去られた事は議会以外に一部の諜報員しか知らされていない。私も、トンベリから聞かされて最初は驚きを隠せなかったが……トンベリが嘘をつくはずがないからな」


 私はホッと安堵の息を吐く。チョコボが無事に帰れたみたいで安心した。でもトンベリに言うなんて思いもよらなかった。
 きっと議会は私のことはもう用済みであり、いつ忘れてもよかったのだろう。だから白虎に連れ去られたと言われても動こうとしなかったし、ナギに私を忘れろと言ったわけだ。
 まぁ、今私が朱雀に帰ったところで、何事もなかったかのように白虎のことをうんざりするぐらい聞かれるんだろう。どんな理由で逃げようか考えておかなければ。


「お前が無事でトンベリも安心するだろう、朱雀に帰投したらトンベリにも会いに来るといい」
「はい、会いに行きます。クラサメ隊長、わざわざありがとうございました」


 私はソファから立ち上がり、クラサメ隊長に深く礼をする。
 クラサメ隊長が0組の隊長で本当によかった。心の底からそう思ったのだった。