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 ソファでジャックやセブンと他愛もない話をしながら寛いでいたら、突然来賓室の扉が開く。
 私たちはそっちに顔を向けるとクラサメ隊長が来賓室へと歩を進めていた。私もジャックもソファから立ち上がりクラサメ隊長のところへ行く。クラサメ隊長は私たちを見渡して口を開いた。


「待たせたな。諸君の所属、および処遇については正式に我々の預かりとなった」
「私たちの身分を証明して引き取るために白虎まで来たわけじゃないんだろ?」
「カリヤ院長は停戦条約に向けた会談に臨むべく、ここ白虎に滞在している。私は随伴員だが諸君の指揮隊長でもあり、状況の説明と指示を行う義務がある」


 淡々と言うクラサメ隊長に私たちは黙って聞くことしかできなかった。クラサメ隊長が言い終わるとマキナが難しい顔をしてクラサメ隊長の前へと歩いていく。


「隊長、質問の許可を願います」
「なんだ」


 私はマキナとクラサメ隊長を交互に見る。0組も2人を静かに見つめていた。
 マキナは少しだけ興奮しているのかクラサメ隊長に詰め寄る形で口を開く。


「朱雀議会はオレたちの作戦を理解していたはずです。なぜ停戦会談に同意したのですか?」
「皇国が朱雀に対する全面的な譲歩を条件にだしたのだ。そうなれば議会が拒否する理由はない」


 マキナの問い掛けもクラサメ隊長は淡々と答える。それが癪に触ったのかマキナは声を荒らげた。


「オレたちは新型実験機の破壊に成功してたんだ!そんなのは時間稼ぎに決まってる!」
「皇国から条件提示が行われたのはその前の段階だ。侵入作戦中だった諸君への連絡が後となっただけのこと」


 クラサメ隊長がそれを言ったところで今度はエースがクラサメ隊長の前へと出た。朱雀が余りにも白虎のことを甘く見すぎていて、私もこれはムシが良すぎる気がする。あの白虎に従うというのか。


「皇国に裏がないって、議会は本気で考えているのか?」
「他国の思惑がどうあれ、条約が締結されればこの戦争は終わる」


 そんな上手くいくはずがない。白虎は、シドはこの戦争を終わらせない。きっとどこかで何か裏があるはず。
 私は必死に頭を捻らせた。今はここに蒼龍も朱雀もいる。何かをするにはもってこいだ。一体シドは何を考えているのだろう。


「会談が終わるにはまだしばらくの時間がかかる。作戦の疲れも残っているだろう。諸君はここに一泊し、明日朱雀に帰投すればいい」


 伏せていた目をふとマキナのほうへと移せば、マキナはまだ納得がいかない様子で腰に手をあてて顔を俯かせていた。


「明日の午後までは休暇扱いだ。軍事区域外の行動は許可されている。皇国の首都に来る機会など、そうはない。市内を回ってみたらどうだ?」
「そうします」
「へぇー市内回れるんだねぇ。メイー僕と一緒に回ろう?」
「………」
「?メイ?」
「!え、あ、うん」
「候補生としての立場を忘れず、有意義に過ごせ。それとメイ、少し話がある」
「!」


 隣でジャックが不満の声をもらしていたが、私はクラサメ隊長のほうへと顔を向ける。クラサメ隊長は真っ直ぐ私を見ていて、まるで私がここにいるのをわかっていたような、そんな感じがした。
 私はジャックにまた後でね、と言いクラサメ隊長の後ろを着いていくのだった。