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あれからあっという間に3時間が経ち、私は正面ゲートに居た。一応私の武器である小刀を腰に装着。今回の任務で使うかはわからないけれど、ないよりあったほうがもしものときに対応できるからだ。 待ち合わせの時間から既に30分も過ぎていて、COMMで連絡しようとした時、ナギの声が耳に入った。
「おー!来るのはえーなぁ!」 「………」 「いや悪かったって!遅れてごめん!」 「…今回だけだからね。ほら、さっさと行こう」
平謝りするナギを横目に、私は扉を開けた。 マクタイはペリシティリウム朱雀のすぐ近くにある。皇国軍に取られてしまったため、今はどういう状況なのかわからなかった。状況を把握するために今回は私とナギが駆り出される。ナギと一緒の任務なんて久し振りだ。私は大抵重要書類を盗んでこい、とか、スパイを暗殺しろ、とか単独での任務が多かったから。 気の知れたナギとなら今回の任務はちゃちゃっと終わりそうだ。
「よし、入るぜ」 「はーい」
ナギが前々から見つけていた秘密通路を使い、マクタイへ入る。マクタイはあちこちが炎に包まれていて、建物もほとんどが壊滅、本当に酷い有り様だった。
「生きてる人はいるのかな」 「今から助けに行くんだよ」 「……は、え?」
ナギは今なんと言った。今から助けに行くということは、ここに取り残されている住民を助ける、ということでいいのだろうか。ただの調査じゃなかったの、とナギに問い掛けるとナギは周囲を気にしながら口を開いた。
「それもあるが、残ってる住民の救助も任務だぜ。皇国兵に見つかってなきゃいいんだけどな」 「……そうですか」
任務が増えたところでどうということはない。住民の救助を優先しながら、皇国軍の動きを見ればいいだけの話。ここは臨機応変に。今言われたのは吃驚したけれど。
「案外、少ないんだね」 「そうだな…ま、休憩してる奴等もいるだろ多少は」 「変な機械もあるし」 「白虎は兵器が主だからな、クリスタルジャマーといい、全く厄介だぜほんと」
私達は音を立てないように静かに街を駆け抜ける。ある一軒家の中に忍び込むと、ナギがある場所の床を静かに叩き始めた。
「ここだな」 「何してるの?」 「この下、地下なんだよ。そこに住民が避難してるはずだ」
まさかこの一軒家の床下に地下があろうとは。この家に荒らされた気配はないから、まだ皇国兵には見つかっていないはずだ。ナギはゆっくり床の板を外す。そこには下へ続くだろう、階段があった。
「すご…」 「メイ、お前が下に行って住民をこっちに誘導させろ。俺はここで見張ってるから」 「え、大丈夫?」 「平気平気。けど、俺に何かあったらすぐ逃げろよ」 「………」
何かあったら、なんて。そんなこと言うな、とナギを一発叩いて足早に階段を降りていく。少し歩くと小さく縮こまっている住民だろう人たちがいた。 私はなるべく驚かせないように近付き、明かりをつける。その明かりに気付いた住民達は私の服装を見るなり、安堵の息をもらした。
「こ、候補生か…?」 「はい、そうです。あなた方を助けに来ました」 「ああ…よかった…」 「はやくここから出たかったんだ…」 「朱雀が今度マクタイの奪還作戦を行います。ここに居ては危険ですから、一度ペリシティリウム朱雀で保護します」 「…そうか…」 「ここは…どうなるんだい…?」 「…最善を尽くしましょう。さ、とにかく皇国兵に見つからないうちに出ましょう。もう一人候補生がいるのでその人の指示に従ってください」
私は一人一人確認しながら、ナギがいる入口へと向かわせる。数十人といったところだろうか。犠牲者はきっと多いだろう。 最後の一人を見送り、私はもう一度人が残っていないか確認する。人の気配はない。 そのあと私もすぐに地下から出ると、ナギが住民達に指示を出していた。住民達は静かにナギの指示に従い、私たちが通ってきた秘密通路へ向かう。ナギが先頭、私が一番後ろで住民を2人で挟んで行動した。皇国兵に見つからないように速やかに通路の中を歩いていく。漸く町の外に出られた私達はそのまま魔導院まで住民を連れていき、任務は無事成功した。
住民達は朱雀に無事保護され、任務を終えた私たちは教室で報告書を書いていた。皇国軍の動きと数、どんな風に見張りを行っているかなど、詳しく報告書に書く。帰る頃には辺りはすでに暗くなっており、教室には私とナギしかいなかった。
「あぁ、そういや今度やるマクタイ奪還作戦で0組が出るらしいぜ」 「…へぇ、」
成る程、0組の力をはかるためでもあるのか。 私はナギの言葉を聞きながらペンを走らせる。ナギは私の隣で頬杖をつきながら、こちらを見ているが気にせず書き続けた。
「なぁ、」 「ん?」 「あんとき、俺に何かあったらどうしてた?」 「………え?」
思わず手が止まりナギを見る。ナギはニヤニヤしながら私の言葉を待っていた。
「…何もなかったじゃん」 「何もなかったけどよ、もし、何かあったら」 「そんなん考えたくないよ」
どうするか、なんてその場になってみなくちゃわからない。死と隣り合わせな日々だからこそ、もし、とか考えたくもない。 クリスタルのお陰で、亡くなった人のことを忘れさせてくれるけれど、私は忘れたくない。忘れたくないと思っていても、忘れてしまうんだけれど。だから、ナギがもし死んだとしても私はきっと忘れてしまう。それが、正直、恐いのだ。
「…そんなこと言わないで」 「そうだよな、わりぃ」 「………」 「……いやー俺愛されてんなぁ!」 「はい?」
思わずペンを折りそうになった。こいつは何を言ってるんだ。
「俺のこと忘れたくないんだろ?」 「え、…何言ってんの?あり得ないし」 「照れんなって!」 「はぁっ!?も、もうあんたが報告書書け!私は寝る!」
ペンと報告書の紙をナギに渡し、すぐに魔法陣で教室を出た。
(なんなんだあいつ!いきなり何を言うかと思ったら、ふざけたこと言って!ナギのアホ!)
図星だったから余計に腹立たしかった。
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