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 魔導アーマー破壊指令が下されて休戦協議が言い渡されてから、ホテルの来賓室でずっと私たちは朱雀の連中が来るまで待っていた。
 さっきまで騒いでいた0組も、待ちくたびれたのかソファで寝始める子もいた。かくいう私も一番端のソファに座ってウトウトとしていたら、ジャックが私の顔を覗き込んできた。


「メイ眠いの?」
「んー…まぁ、ね。ジャックは眠くないの?」
「ううん、僕は平気だよー」


 嘘つき。そう言うとジャックは目を丸くさせ、そして照れ臭そうに笑った。メイには敵わないやーと言いながら、両手を頭の後ろに組む。それを横目に私は少しだけ笑った。
 さっきジャックは私に抱き着こうとしていて、色んな人に説教されていた。説教されたのにも関わらず抱き着こうとしてきたので、私がやめてね、とやんわり言ったら素直にわかった、と言ってそれから抱き着こうとすることはなくなった。
 エースがメイにはやたら素直なんだよな、と苦笑を浮かべて頭を掻いていたのを思い出す。


「僕のここで寝てもいいよー」
「遠慮します」
「遠慮しなくてもいいのにー!僕の足はメイのためにあるんだから!」
「………」


 自分の太股に手でポンポンと叩くジャックに私は溜め息をつく。皆はもう突っ込むことに疲れたようで私たちを見てはいるが、関わらないようにしていてそれにまた溜め息をつきたくなった。
 それにしても蒼龍のほうはもう来ているらしいが、朱雀のほうはまだらしい。さっさと魔導院に帰りたい。自分のベッドで寝たい。


「溜め息つくと幸せ逃げちゃうよ?」
「別にいいよ」
「良くない良くない!…あっ、なら僕が幸せにすればいいじゃん!僕ってばナイスアイデ」
「いや意味わかんないから」


 来賓室に響く私とジャックのやりとりに、0組の皆は慣れてる様子でスルーしていた。いや慣れるな、慣れないでくれ。そう心の中で呟く。ジャックは幸せにするよー?とか言ってるし、もうどうでもよくなってきた。いちいち反応する私がいけないんだ。
 私はジャックから顔をそらして無視を決め込んだ。


「…………」
「メイ?」
「…………」
「メイってばぁー」
「…………」


 無視されたとわかったのかジャックはガクリと項垂れる。私は少しだけ申し訳なく思いながらも、ここで甘やかして返事をしてしまえばジャックはもっと付け上がるかもしれない、とグッと我慢した。
 ソファの縁に肘を置いて頬杖をする。静かな来賓室に再び眠気が襲ってきて、とうとう欠伸まで出てきてしまった。ソファに横にはなれないし、頬杖のままでは眠れないしと頑張って起きてようと両手で顔を擦ったりしていたら、左肩にジャックの手が現れた。


「肩、貸してあげるよぉ」
「…い、いいよ。起きてる」
「さっきから凄い眠そうにしてるじゃん」
「………」
「ほら、肩なら僕なにもできないし」


 ジャックは両手を上げてお手上げのポーズをする。確かに、ジャックの太股に頭を乗せたら何をされるかわかったものじゃない。でも肩だったら何もされないとは言い切れないけど、何かしようものなら動かないとできない体勢だからきっと動いた時に気が付くだろう。
 そう考えて私はジャックの顔を見ると、ジャックはニッコリと笑ってどうぞーと言った。


「じゃあ、失礼します…」
「ほいほーい」


 私はジャックの右肩に頭を預ける。若干硬いけどこれなら姿勢も楽だし寝られそう。少しだけ目線を上に向けるとジャックが優しい表情で、ん?と私の顔を覗いてきた。恥ずかしくなった私はパッと目線を下に移して、心臓を落ち着かせるために無理矢理目を瞑るのだった。


(……ふぁーあ…僕も眠くなっちゃったなぁ…へへ、手握っちゃおっと。メイ、おやすみぃ)
(…なんだあの2人は)
(見てるこっちが恥ずかしくなるな)
(仲良いねぇ、あの2人〜)
(仲が良いっていうより、その…こ、恋人みたいだよな…)

 キングとセブンは呆れた様子で、シンクは面白そうに、エイトは顔を赤らめて2人の様子を遠くから見守っていたのだった。