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「そういえばシド・オールスタインとは顔見知りなんですか?」
「え、…連れて来られたときが初対面だったよ」
「そうですか…ではその時、シドから何か言われなかったですか?」
「…いや、」


 トレイが私に質問攻めをする。
 シドに何か言われなかったと問われたとき、少し迷ったが否定の言葉を口にした。それを聞いたトレイは少しだけ黙って、また口を開く。


「それからシドと対面したことは?」
「連れて来られたときと政見放送のとき以外シドとは会ってない」
「……そうですか。政見放送のときシドはあなたに何か言いましたか?」
「………」


 私とシドの関係を疑っているような、そんな感じが0組から伝わってくる。トレイが私に質問してくる中、ジャック以外の0組が真剣な表情で私を見つめていた。


「…私が政見放送に出る理由は聞いた、かな」
「なんて言ったんだ?」
「…私がなんで政見放送に出なければならないのかって言ったら、シドは見せしめだ、としか言わなかった」


 見せしめ、それは一体誰に対してなんだろうか。シドが何を考えてるのか私には全くわからない。トレイは顎に手を添えて難しい顔をしていた。


「…オイ、本当にアイツとは何の関係もねぇって言い切れるのかよ」
「それだけは言い切れる!ただ…本当になんで殺されずに済んだのか、私だってわからないんだよ…」


 疑うのは自由だ。それに疑われるのだってずっと前から慣れてる。
 でもどうしてだろう。0組に疑われるというだけで、心臓を強く握りしめられるような感覚がした。疑いの眼差しを向けられることに慣れてるはずなのに、どうしてこんな感覚になってしまうのだろう。
 気まずくなって私は顔を伏せた。


「…………」
「あーもう!皆してメイをいじめるなよー!よしよーし、メイには僕がいるからねぇ」
「なっ…」
「いっ、いじめてなんかいませんよ!」


 ジャックの大きな手が私の頭を優しく撫でる。顔を上げると、ジャックのいつものような笑顔がそこにはあって、その笑顔にどこか安心してしまった。


「とにかく!メイも無事だったんだし、もういいじゃん!」
「ケイト…」
「…メイを見る限り、本当に何も知らないという感じだしもういいじゃないか」
「……すみません、疑いをかけるような真似をして」
「う、ううん。…役に立てなくてごめんね」


 ケイトとセブンが私を擁護してくれ、すまなそうに謝るトレイに私は苦笑混じりに言う。
 私がもっとしっかりしていればいろいろな情報を得られたかもしれないのに、自分のことばかり気にしていた。これじゃあ諜報員失格だ。


「それにしても、メイはあいつとも知り合ったのか?」
「?あいつって?」
「カトル・バシュタールだ」
「あぁ…」


 エイトとキングさんが腰に手をあてて問い掛ける。私は皇国でカトル・バシュタールが私の世話係してくれたみたいで、と言うとジャックが世話係!?と過剰に反応した。


「世話係ってどういうこと!?まさか、あんなことやこんなことやられたんじゃ…!」
「えぇ!?そ、そうなんですか?!」
「え!?いやいやいや、違う違う違う!」


 ジャックの反応ぶりに純粋なデュースさんが両手を口にあてて目を丸くさせ、私を凝視する。どことなく顔が赤いのは気のせいではないだろう。
 私は両手をぶんぶんと横に振り否定の言葉を並べ、勘違いされるような発言をしたジャックの背中を叩くのだった。