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 あれからホテル・アルマダに0組は案内された。
 私はずっとセブンとジャックの間にいて、しかもジャックが痛いくらいに手を握ってくるもんだから、離れようとしても離れられなかった。


「貴様らはここにいろ。メイは…」
「メイは渡さないよ」


 ジャックが私を隠すようにすると、カトルはこめかみを押さえて溜め息をついた。


「仕方ない…か、まぁメイは元は朱雀の人間だ、そちら側にいるほうがいいだろう」
「!でもシドには…」
「シド様にはもう了承済みだ。あと貴様らは朱雀の連中が来るまでここにいろ。あちこち動かれてしまっては困るからな」


 そう言うとカトルはホテルから出ていった。シドには了承済みって、あの人は一体何を考えているのだろう。まぁいくら考えてもあの人の考えなんてわからないし、わかりたくもない。監視から逃れただけよしとしよう、そう考えることにした。


「で、あんたはなんでこんなとこにいるわけ?」
「きっちり説明してもらうからな」
「………はい」


 0組が怪訝な面持ちで私を見つめていた。私みたいなただの候補生が、どうして白虎にいるのかなんて他の候補生にとっては不思議でならないだろう。それに任務のことだって誰にも言ってない。不思議だと思うと同時に、不審がってもおかしくない状況だ。
 説明して信じる信じないは本人次第だとして、一体どこからどこまで説明すればいいだろうか。


「…えーと…か、簡潔に言うと、任務の時に捕まってそのまま皇国に連れてかれて閉じ込められた…かな」


 とりあえず簡潔に言う。0組はハァ?と言うような表情をしていた。あんまり細かく言いたくなかったし、シドの発言だって私自身まだ理解できていないから0組に話す必要性はない。
 これは私だけの問題だからだ。


「…なんで皇国はメイを殺さなかったんだ?」
「それは……」
「確かに、皇国は捕虜を捕らないはずです」
「う〜ん…皇国ってぇ、何がしたいんだろうねぇ〜」


 エースが疑問点を私に投げ掛ける。クイーンさんもエースの発言に首を傾げ、シンクさんは口元に人差し指を当てて眉間にシワを寄せていた。それを聞いて、シドとのやりとりが脳裏を過る。
 "貴様がどう選択するかがこの行く末の鍵となろう"
 シドはそう言っていた。本当にあの人は何を知っているのだろう。


「まぁいいじゃない。任務で運悪く捕まったのに、殺されずに済んだんだしさ」
「任務ってのは嘘で、今ここにいるこいつは元々皇国の人間だったってことも考えられるじゃん」
「メイは僕達の味方だよー!皇国の人間なわけないじゃん」


 サイスさんは腕を組み疑いの眼差しで私を見ると、ジャックが笑顔でフォローする。ジャックのその声は少し怒りが混じっているような、そんな気がした。
 私は肩を竦めて、疑われるのも仕方ないよねと言うとトレイが思い出したかのように、そういえばと呟いた。