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 その場で動けずにいた私は、突然腕を掴まれ身体が前のめりになった。


「っ!」


 気付いた時には懐かしい香りでいっぱいになった。この香りの正体を私は知っている。


「ちょ」


 ジャックの身体から顔だけを覗かせると皆が、しかもカトルまでもが呆然としていて、私は顔に熱が集まるのを感じる。ぎゅう、ときつく抱き締めるジャックに私は手を使おうとするが腕ごと抱き締められていて、上手く使えないでいた。


「…なっ、何してるんですかジャック!」


 先に声を上げたのはクイーンさんで、その声で我に返った皆が私とジャックを離れさせようとする。くすぐられても耳を引っ張られても腕を外そうとしてもなかなか離れないジャックに、皆は肩を落とした。


「……かった」
「へ」
「…めちゃくちゃ会いたかった…!メイ……!」


 ジャックがそう呟くと0組は目を丸くさせ、私へと目線を移した。見かねたカトルがハァ、と盛大な溜め息をつき私のフードをめくる。


「!え、メイさん…!?」
「まっマジかよ…!」
「どうしてあなたがここに…!?」


 0組は口々に驚愕の声を漏らす。
 私はどんな顔をしていいかわからず目を泳がせてると、ジャックが抱き締める力を緩めたのがわかり、私はジャックを思いっきり突き飛ばした。


「!いたっ」
「きゅ、急に抱き着くなって言ったでしょ…!」


 ジャックは突き飛ばられたのにも関わらず、嬉しそうな顔をしていて私は怯む。
 どうして、なんで、と0組は混乱していて私は説明しようと口を開こうとするがカトルに遮られてしまった。


「メイ、さっきあいつらにも言ったことだが、ミリテス・コンコルディア・ルブルムはファブラ協定の発動により一時的な休戦状態となった」
「休戦状態…?」
「そうだ。協定違反は状況に例外なく処刑される」


 私は自然と0組のほうへと視線を向ける。0組の面々は仕方ないという表情の人、納得がいかないという表情の人で別れていて、特にマキナは皆よりも悔しそうな表情をして顔を俯かせていた。


「…貴様ら、我に着いてこい。ここで身体を休めさせるわけにはいかないからな」


 カトルがそう言うと0組は大人しくそれに従う。私はカトルの後ろへと着いていこうとすると、誰かに手首を掴まれた。


「…後で説明してもらうからな」
「せっ…セブン…」


 何だか恐い形相で言うセブンに、私は苦笑いをするしかなかった。皇国のホテルまでセブンとジャックに挟まれて移動する私は、何だか捕われた人みたいで少し笑ってしまった。