66.5





 またあの服を着るなんて嫌だなぁ。そう思ってクローゼットから出したのは、政見放送のときに着たぶかぶかのコートだった。男物なのだろうか、足の長さも腕の長さも全く私には足りない。
 工場に行けることになったのはいいものの、まさか准将の傍を離れられないなんて、と肩を落とす。でもシドじゃなかっただけマシかもしれない。


「準備はできたか」
「あ、はい」
「そうか、では行くぞ」
「はーい」


 カトルが迎えに来ると私はCOMMを懐にしまい、カトルの後ろへと歩を進める。カトルの後ろを歩いていると、皇国兵はすれ違い様に私を睨み付けていて、その突き刺さる痛々しい目線に私は溜め息をついた。

 列車を使い、工場へと向かう。車内で二人きりになると室内は気まずい空気になるのがわかった。
 私は目線を合わせないよう外へと顔を向けていた。


「…貴様の、名前を聞いていなかったな」
「!」


 私は目を丸くしてカトルのほうに顔を向ける。
 今更、何故名前なんかを聞くのだろうか。そういえばシドは私の名前を聞かなかった。名前を聞かずとも私が何者かをシドはわかっていたようだったけれど。


「メイ…です」
「そうか…メイ、貴様工場に何の用があって行きたいと言い出した」
「!」


 一番聞かれたくない質問に私は身体がピシッと固まってしまう。なるべく冷静を装い、口を開いた。


「滅多に来れない場所ですし、どうせなら白虎の工場を見ておきたいなと思って。今更朱雀には帰れないですし」
「………そうか」


 カトルは納得したのかわからないが腕を組んで顔を俯かせる。どこまで突っ込まれるのか内心すごくドキドキしていたのに、案外すんなりと退いたので拍子抜けしてしまった。
 私はカトルにわからないようにホッと一息つくのだった。



 工場に着くと、何だか皇国兵が慌ただしく動き回っていた。ただの工場なのにこんな慌ただしく動き回る必要があるのか、と呆然と見ていると1人の皇国兵がカトルに気付き声をあげる。


「か、カトル准将!」
「どうした、何か問題があったのか?」
「侵入者です!朱の魔人が工場内に!」
「!」
「なんだと…!?」


 私は思わず口元に手を当てる。カトルは顎に手をあてて、今その侵入者はどこにいる、と皇国兵に問い掛けた。


「今は開発棟、第21管理室にいるとの情報が」
「カトル准将!今白虎のルシが侵入者のところへ向かっています!」
「白虎のルシ…!」
「…我々もそちらに向かおう。奴らを止めなければならない、貴様も来い」
「え、あっはい!」


 カトルは足早に開発棟へと足を進めた。私もその後ろを追い掛ける。
 白虎のルシが0組のところへ行って対峙するのならば、きっと無事でいられるわけがない。しかも白虎のルシ、ニンブスは甲型のルシだったはず。あのシュユ卿と互角に渡り合ったのだ、いくら魔導院では最強と言われている0組と言えど、あのルシに勝てるはずかない。

 どうか、無事でいて…!

 そう願うことしか私にはできなかった。