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ナギから任務を聞いて数日経ったある日。教室に居たらCOMMに連絡が入った。やっとか、と思いながら繋ぐ。
『よぉ、ちゃんと繋がったな』 「…ナギから逃げられないってわかってるからね」 『お、よくわかってんじゃん!』 「で?いつから行くの?」 『あーっと…今から3時間後ってとこかな』 「え、急すぎじゃない?!」 『俺も今さっき聞いたんだって。全く人使いの荒いヤツらだよなぁ』
今から3時間後。私とナギはマクタイへ偵察任務を実行する。上からの命令とはいえ、ナギはともかく、何故私まで任務に行かなきゃならないんだ。本当諜報部に訴えたいものだ。いや無理だけれど。 私はナギに了解と伝え、席を立つ。今から任務の準備をしに自室に戻るためだ。 魔法陣で教室からエントランスに出ると背中に小さい衝撃が走った。誰かが背中に抱き着いている。前にも言ったがこんなことするのはジャックかムツキしかいない。この衝撃と気配からしてムツキだと確信する。 後ろを振り返ると案の定、ムツキがこちらを見上げてにこーと笑みを浮かべていた。
「メイ発見!」 「ムツキ…」 「ぐ、偶然だからな!別に、ま、待ってたわけじゃないんだからなっ」
それは遠回しに待っていたと言っているようなもんだ。ムツキもジャック並みにストーカー気質があるらしい。どうして私はストーカー気質の人に気に入られるのだろう。ムツキはかわいいから許すけど。
「ねぇ、メイ。こないだ新しい爆弾作ったんだ!試しに今度海岸行こ?」 「また新しい爆弾作ったの?失敗してないよね?」 「大丈夫だよ!前みたいに勝手に爆発しないから!」
私はムツキの頭を撫でるとムツキはにひひ、と笑い私をギュウと抱き締めた。
「ムツキ、私今から任務なの。爆弾の件はそれが終わってからでいい?」 「うん!任務、気を付けてな」 「ありがとう」
かわいすぎるムツキに私も抱き着いた。周りの視線が痛いけど気にしない。 ムツキの両親は朱雀でも有名な研究者だった。しかしある事件によりムツキは心を閉ざしてしまう。 皇国に雇われたスパイがムツキの両親の研究技術に目をつけ、ムツキを誘拐したのだ。それを助けようとしたムツキの両親はスパイの誘いに乗り、殺されてしまった。 当時の諜報部により情報漏洩は避けられ、ムツキも無事保護されたが、両親の記憶がなくなったせいなのかその時から笑わなくなったし、泣かなくなった。 当時、ムツキを保護するための任務についたのは私だった。笑うことも泣くこともしないムツキを放っておけなくて、しつこく世話をしていた。その甲斐あって今ではすっかりなついてくれるようになった。私の前で笑ってくれるようになって、泣くこともできるようになって、心底安堵したのは今でもしっかり覚えている。 そんなムツキは何故か私にいつもありがとうと言う。そのお陰で、任務があってもムツキがいるから死なないで帰ってこなきゃと思える。だから私もムツキには感謝しているのだ。
「あー!」 「え」
その声は、と思ったら、私の背中に誰かが抱き着いてきた。誰と言わなくてもわかる。この声と気配は紛れもなくジャックだ。ムツキはビックリしたのか私から離れた。
「なに僕のメイに抱き着いてるのさぁ」 「だ、誰だお前!も、もしかしてボクをいじめに来たんだな!?そうだろ!」 「はへ?何言ってるのこの子」 「わぁー!ムツキ、違うよ!こいつは私目当てだから大丈夫、ムツキのこといじめに来たわけじゃないから!」 「む、本当?……あ、てことはメイのこといじめに来たんだな!メイから離れろ!」 「アハハー、嫌に決まってるじゃーん」 「むーっ!胡散臭い笑顔して、メイに近付くな!」 「………」 「む、ムツキ!私は大丈夫だから!ジャックも離れなさい!」
私は無理矢理ジャックを引き剥がす。ジャックはジャックで今まで見たことないような顔でムツキを睨んで?いるし、ムツキはムツキで爆弾を取りだし、今にも爆発させようとしている。 この2人、絶対相性合わないだろう。いや、そんな暢気なこといってる場合ではない。
「あ、ムツキ居たクポ!授業抜け出しちゃダメクポー!」 「あ、モーグリ」 「ほら、とっとと来るクポ!ボクは悲しいクポー…もうちょっと言うこと聞いて欲しいクポ」 「…ムツキ、授業抜け出しちゃダメでしょ」 「だ、だって…」 「全く、今度授業抜け出したら、爆弾の試し爆発に付き合ってあげないんだからね。わかった?」 「うー…わかった…」 「よしよし、モーグリ、ムツキをよろしくね」 「任せてクポ!ほら、ムツキ行くクポー」 「うん。メイまたな!あとそこのヤツ!メイいじめたらただじゃおかないからなー!」
そう言うとムツキと12組のモーグリは魔法陣へと消えていく。心の中でモーグリに感謝していたら不意に名前を呼ばれた。
「ねぇメイ」 「…なに?」
そういえばまだこいつが居た。ムツキもハッキリ物を言う子だなと感心してしまう。胡散臭い笑顔、なんて私は思ってても言わない。きっと理由があるんだろうから。
「あの子、なんなの?」 「え、私の友達…」 「ふぅん。僕はー?」 「えぇ…と、友達…?」
いつものような笑みがない真顔なジャックに顔が引きつる。初めて見る顔だからだろうか。普段笑っているから恐く感じるだけなのだろうか。
「じゃあ、僕にも抱き締めてくれるー?」 「は?なんでそうなるの」 「友達なんでしょー?あの子は良くて僕はダメなの?」 「そ、そういう問題じゃ…!」
詰め寄ってくるジャックに、誰だこいつはと眉を寄せた。胡散臭い笑顔振り撒いてるジャックではないジャックに私はたじろぐ。というか、本当のジャックはコレってことなのか。
「あ、あのね…ジャック、付き合ってもない男女がハグするのって、私は無理、なんだよ」 「………」 「ムツキは女だからいいけど、ジャックは、ね?」 「……そっかぁ…」
ポソリと寂しそうに呟いたジャックに、少し同情しそうになった。いやいや、ジャックは男だ、ここで同情してはいけない。
「ご、ごめんねジャック」 「……しょうがないよねぇ。あ、でも僕からは抱き着くからよろしくー」
へらっと笑うジャックにまぁそれくらいは、と思わず呟いてしまった。それを聞いたジャックは満面の笑みで再び抱き着いてきたのだった。 なかなか離れないジャックに私が四苦八苦していると、たまたま通りかかったクラサメ隊長に助けてもらった。そういえば、最後の満面の笑みは、胡散臭くなかったような気がする。
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