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 24日。

 とうとう明日、0組が皇国の工場内に潜入する。
 私はというと、今日も部屋の中に閉じ籠もりっぱなしで、最近は身体が鈍るといけないから筋トレを励む日々を送っていた。なんて危機感がないのだろうと自分でも呆れてしまう。
 それよりも明日、私は工場へと行かなければと思っているのだが、まだ工場に行ける方法が見つからないでいた。ここから自力で出られないともうわかっているので、シドに言って工場に連れてってくれるよう頼むしかない。


「入るぞ」
「言う前にもう入ってますけどね」


 仮にも女の子がいる部屋だというのに、ノックもせず堂々と入ってくるようになった。いつも時間通りに食事を持ってくるから別にいいけど、だからといってノックもしないで入ってくるのは私としても少し嫌だったりする。


「食事だ」
「ありがとうございます………あ」


 そうだ、カトルにシドに会えるか聞いてみよう。会えなかったらシドに言伝を頼んでみよう。
 持ってきた食事をテーブルに置くカトルに、私はあの、と話し掛けた。カトルはゆっくり私に振り返る。


「なんだ」
「…シドに会いたいです」
「何故だ」
「……何となく」
「却下する」


 そりゃそうだろうな。何となくで会わせてもらえるわけがない。何言ってるんだ自分。
 でも、カトルとしか話せないから今ここで頼み込まないともう明日になってしまう。そんなことになったら助けようと思っててもできないじゃないか…!


「っあの!」
「……まだ何かあるのか」
「シドに、言伝をお願いしてもいいですか…?」
「言伝…?」
「そうです」


 カトルは眉間にシワを寄せて私を睨み付ける。私も負けじとカトルを睨み付ける。しばらく両者の睨み合いが続いたのち、カトルが溜め息をついて片手で頭を抱えた。


「言うだけ言ってみろ」
「言うだけじゃなくシドに伝えてもらいたいんです」
「我がそれを判断する、早く言え」


 私はギュッと拳を強く握る。
 ここでもし却下なんてされたらと思うと、慎重に言葉を選ばなければならない、とプレッシャーを感じていた。


「いつまでもこんな退屈な部屋にいるのはつまらないから」
「………」
「せっかく皇国に来たんだから…白虎の工場とか、色々見学したいなぁと思いまして。別に私は捕らえられてる身ですから、戦う気はこれっぽっちもないです。こんな敵だらけの中で戦ったって負けるだけですしね」
「………」


 うわ、カトルめっちゃ顔が険しいよ、どうしよう、駄目だったかな。結構言葉選んで言ってはみたものの、カトルの表情は未だ険しいままだった。


「…その気持ちに他意はないと言えるか?」
「…はい」
「………仕方がない、シド様に聞いてくる、大人しく待ってろ」
「!」


 私は心の中でガッツポーズをする。でもまだ工場に決まったわけではない。シドが許可を出してくれないと工場へは行けない。でもあんな理由で、工場へ行けるのだろうか…。
 私は椅子に座って大人しく待つことしかできなかった。