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 ナギが姿を消した後僕はまたベンチに横になった。雲ひとつない青い空が目に映り、きれいだなぁと呟く。
 先ほどのやり取りが頭の中に浮かび上がる。メイを無理矢理にでも連れ帰って来てくれ、だなんてナギらしくない。自分はメイと会ったくせに、どうしてその時無理矢理連れて帰って来なかったのか。
 メイに訳があったのかと思うと溜め息が漏れた。無理矢理でもよかったからメイを連れて帰って来てほしかった。メイを見ないと、触れないと、なんか頭がおかしくなってしまいそうだ。どうしてこんなにもメイを欲するのか自分でも未だにわかっちゃいなかった。
 そういえばナギが言ってた、工場内にメイが現れるっていう情報はどこで手に入れたのだろうか。メイから直接そう聞いたのかな。工場内に現れるって聞いたのはいいけど、工場内のどこだろう。そこが一番重要だと言うのに、もっと詳しく話してもらいたかった。


「こんなところにいたのか」
「!キングか、どうしたのー?」
「今からブリーフィングだ。教室行くぞ」
「あ、そうなんだ。ていうかCOMMで連絡すればよかったじゃん」
「電源切ってる奴はどこのどいつだ」
「……あは、ごめーん」


 キングは溜め息をつき魔法陣の中に消えて行った。僕もベンチから下りて魔法陣へと向かい、歩きながらCOMMの電源を着けておく。
 今回のブリーフィングはきっとナギが言っていたような内容だろう。



 教室に入るとどうやら僕が最後だったらしく、ナインにおせぇぞコラァと怒られてしまった。ごめんごめん、と謝っているとクラサメ隊長が早く席に着けと急かしてきた。
 僕が席に着くとクラサメ隊長は皆を見渡して、口を開いた。


「揃ったようだな、では始めよう。まず、これを見てもらう」


 そう言うとクラサメ隊長はある映像を映した。そこには僕たちがトゴレス要塞のときに戦った魔導アーマーが映し出されていた。


「これは…」
「そう、反功作戦で諸君が交戦した、高機動飛行兵器だ。諜報部の調査で判明したことだが、あれは魔法障壁試験のために投入された機体だ」
「つまり、実験機だったってわけね」


 僕は頭の後ろに両手を組み、教室を見渡す。


「そうだ、また朱雀侵攻時に使用されたクリスタルジャマーを搭載した魔導アーマーも、同様の実験機だったということだ。クリスタルジャマー、高機動飛行、魔法障壁……朱雀にとって、どれも脅威となりえる兵器だ」


 クラサメ隊長に皆は静かに耳を傾ける。


「開発したのは、白虎第4鋼室と呼ばれる研究機関。その研究機関が、過去の数十倍の規模で物資を集め、更なる実験機の開発を行っていると報告があった。これを見過ごすことはできない」


 だから僕たちが工場内に潜入してそれを破壊する。なるほど、ナギの言ったことは間違いではなかったようだ。ただそこにメイの救出が加わっただけだ。


「皇国領内の軍需工場のうち、このような規模の製造に足る設備を持つ箇所は一つ。ペリシティリウム白虎に隣接した兵器工場。諸君の任務は、その"工場内への潜入"および"新型実験機の破壊"となる」
「ペリシティリウム白虎、皇国首都への侵攻作戦なのか?」


 エイトが顎に手を当てクラサメ隊長に問い掛ける。クラサメ隊長はエイトの問いに首を横に振った。


「いや、侵攻作戦は発令されない。工場への潜入、および破壊工作は諸君の単独任務となる」
「「は?」」


 それを聞いた僕はそういうことかと納得した。だからナギは僕にメイのことを言ったんだ。
 ナインがマジかよと言うと僕は独り言のように呟く。


「敵地のど真ん中なのにねぇ…」


 敵地のど真ん中に工場内の兵器を破壊、そしてメイの救出。でもメイのことは0組の皆には言わないでおこう。だって兵器の破壊にメイの救出をするなんて、絶対大変だから皆に背負わせるわけにはいかない。僕だけで何とかする、そう決めた。


「潜入経路は諜報員が確保している。諸君は、実験機の破壊のみに集中してくれ。この任務の可否は今後行われるであろう、侵攻作戦の要ともなる。全ての力を出し切り、成功させろ」
『はい!』


 クラサメ隊長は実験機の破壊のみに集中しろとだけ言ったということは、クラサメ隊長にもメイのことは伝えられていない。むしろメイのことを気にかけている人なんて、親しい候補生のみな気がしてならなかった。


「本作戦は敵首都への侵入でもある。作戦開始後は、おいそれと朱雀へ戻ることはできない。必要なことがあるのなら、今のうちにしておけ。以上だ」


 クラサメ隊長が言い終わると共に僕たちは教室を出て、ロコルへと向かうのだった。